第百八話 最初のチルドレン(四)
今回からディープです……書いてて思いました、暗いし重い……。でも大事な部分です。
義流は己の力に魅了されつつも大地を背負い夜の路地を駆け出した。
義流の周辺で動いているのは大地を背負った義流と点滅して今にも切れそうな蛍光灯ぐらいである。
大地の体は意外と軽めで、義流は思いのほか簡単に運ぶことができた。
しかし歩いていて十分もした頃、遠方でパトカーのサイレン音や義流が歩いている反対方向へと人が走りながら通り過ぎていく。
義流の制服には濁った血が付着してはいたが夜であったのが幸いして誰にも気付かれずに義流は大地の家へと辿り着くことができた。
義流は家のベルを鳴らした。
すると、小刻みな足音と共に大地の母親が出てきた。
「大ちゃんっ!」
大地の母親はそう叫び、玄関の扉を勢い良く開けた。
義流の姿を見るや否や、
「義流くん!? そ、それに大ちゃん!」
「こんばんは、おばさん。大地を送りに来ました」
「義流くん! あなたその血、どうしたの?」
「おばさんはもし人に聞かれても俺と大地のことは黙っててください。大地がもし目を覚ましたときは携帯に掛けるよう大地に言っておいてくれますか?」
「え、ええ、わかったわ。義流くん、せめて着替えていったら? そんな格好じゃ……」
「いえ、いいです。俺よりも大地のほう看護してやってください。それじゃ、おやすみなさい」
「わかったわ。それじゃ、おやすみ。気をつけるのよ」
「はい」
義流は大地を背中から玄関に降ろし、自分の鞄を持ち、走り出した。大地の母親は昔から気が利くのでこういった事情の飲み込みが早い。
冬の夜は漆黒の闇に包まれてはいるが、まだ九時であるため人の姿はちやほや見える。
その為、プロの短距離選手並の速さで走る義流を街の住民は目を見開きながら、驚愕の視線で義流を追っていた。
そして当の本人だる義流も自分の身の軽さとスピードに驚嘆していた。
「な、なんだ、これも、力ってやつなのかっ!?」
だが、高速の速さで走る義流の声も空気に掻き消されてしまった。
そして義流は普段なら走っても十分は掛かる大地の家からたったの三分で着いてしまい、義流は勢いを殺さずそのまま家の玄関から入り、二階の自分の部屋に駆け込み、ドアをロックした。
「義流ー、ご飯は良いのー?」
「後で食う!」
義流はそう母親に言い返し、自室で着替え始めた。
血が周囲に飛び散らないように細心の注意をはらいながら着替えを終えた義流は風呂場に行き、浴槽に溜まったお湯を制服にかけ足踏みをし始めた。
義流は両足を使って、たわしや洗剤を巧みに使い、水と同化した血は薄紅色の線を描きながら排水溝へと流れ落ちていった。
『くそ、血ってのはとれないもんだな……』
そう思いながらも、義流は制服を丸めて水と血を絞り洗濯機の中にいれ食卓へと向かった。
「おにいちゃん、遅かったね」
「ん? あ、ああ。ちょっとな……」
義流の妹である凜は中学二年生であり、義流とは違い成績優秀、その中学では期待の星である。
「ってゆーか、変わったねーお兄ちゃん」
「そ、そうか?」
「うん、めっちゃ格好良くなった。これは自慢できるね」
凜はそう言いながら自分の指定席に座り足をばたつかせていた。
義流の母親も食卓におかずを運び、座りながら、
「まったく義流は、遅くなるなら電話ぐらい入れなさい。最近はなにやら物騒なんだから」
「そうだよ、おにいちゃん」
「あー、悪かった悪かった。それよりも凜、ちょっとリモコン取ってくれないか?」
「まったく、ご飯中にテレビは見ちゃいけないんだよっ、て誰が言ったんだろうね? はい」
「サンキュー」
義流は食卓の目の前とはいっても二メートル弱離れたところにテレビに向かってリモコンで起動させニュースを見た。
するとテレビ内では、
「た、ただいま緊急ニュースをお送りしております! 先程、○○市、○×町の××○コンビニの前で多数の死体が発見され、一匹の巨大なライオン、いえ虎? 判断しかねる、生き物の死体も発見された模様です。警察はこの虎なる生き物が周辺の住民を惨殺した後、何者かによって殺されたとして周辺住民に調査を行っています! こちら、○○市、○×町の……」
ニュースからは先程義流が関わっていた事件が慌てふためくリポーターにより報道されていた。
「うわー、こわーい」
「ほんとに、よかったわ義流が帰ってきてくれて。ほんと心配したんだから」
「あ、ああ……」
義流はニュースを食い入るように見つめてはいたが遠くを見つめているようであった。
すると家のチャイムが鳴った。
「あら、誰かしら? こんな夜遅くに? はーい、今開けまーす」
義流の母親は食卓の席から立ち上がり玄関へと向かった。
「はい? どなたですか?」
と義流の母親が尋ねた直後、家で銃声が鳴り響いた。
そしてそれに伴って重い何かが床に落ちるような音が鈍く鼓膜を刺激した。