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燃えた夏  作者: Karyu
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第百七話 最初のチルドレン(三)


 大地は生気のないような目で義流を見ていた。


「ど、どうしたんだ、大地?」

「ぎ、義流……」

「おい、どうしたんだよ大地!」

「義流、に、逃げて!」


 大地が義流の姿を見つめるたびに大地は自我を取り戻したかのように義流に叫んだが、大地の懸命の叫びも虚しく、大地と義流の間に屈強そうな大男が割って入った。


 大地は首筋に手套を叩き込まれ地面に崩れ落ちた。気絶したようである。


「おおっと、お前が喋っていいのはそこまでだ。お前が義流か?」

「だ、誰だお前!?」


 義流は咄嗟に身構えた。


「俺の名は土熊。そしてこいつが風花だ」

「よろしくね、義流くん♪」


 土熊の背後から女が顔を覗かせ妖麗な笑みを浮かべ義流に微笑んでいた。


「大地を返せ!」


 義流は土熊に叫んだが、


「ふん、威勢のいいガキだな。ま、俺好みではある」

「はいはい、でもね、あの子は私の♪」

「わーってるよ、俺はもう大地を頂いたからな」

「よし、じゃあ義流くん、こっちに来て」

「だ、誰が行くかっ!」

「そう、それじゃ君の背後で呻いてる化け物を倒したくはないのかな?」

「なにっ!?」


 義流の背後では先程出会った触手の生えた獅子のような生き物は口をぱっくりと開き、獰猛な牙が見えた。


 しかしその生き物は義流を襲わず、周辺にいた人間をことごとく殺戮していった。

 義流の視線の先には逃げ惑う人、呻きと悲鳴の合唱、吹き上がる鮮血、苦悶と恐怖の色がより一層夜の闇に同化し拡大していった。


「なっ……!?」

「あの化け物はねクライオンって言うの。西洋の化け物だけど最近、闇ルートで日本にも渡っているのよね」


 風花はいけしゃあしゃあと興味がなさそうに言った。


「ど、どうするんだよ、あのままじゃ他の人が!」

「だから、私の傍に来て義流くん。あなたにあの化け物をやっつける力をあげるわ」

「なにっ!?」

「もう大地は力を手に入れた。だが今は気絶している。ま、大地が日本で一番最初の《後継者》になったがお前が風花から力を受け継げばお前が日本で始めて力が使えるようになる」


 土熊がそう言い放ち、風花は未だに掴みどころのない笑みを浮かべていた。


「い、意味がわからない。なんだよ力って?」

「いいの、それはすぐにわかるから♪」


 風花は大人びているのか子供めいているのかわからない声で義流に歩みより、義流の首の周りに自分の腕を、手を巻きつけた。


 風花は義流の瞳を見つめ、問うた。


「かわいい貴方は自分を貫き通せる? この乾ききった世の中を――――」


 風花が言い終わるや否や義流の体に異変が生じた。


「ぐっ、ぐうわぁぁぁぁ!!」


 義流は目を見開き瞳孔が不自然に動き、体のあちこちが痙攣し始めた。

 それに気付いたのかクライオンは人間の殺戮を止め、義流のほうに振り向いた。


「ぐはっ、ぐっ……はぁ、はぁ、なんだ、これ?」

「これで貴方は晴れて《後継者》よ。まあ、きっと貴方達はチルドレンて言うことになるかもしれないけどね。それじゃね、義流くん♪」


 風花と土熊は闇に同化し、消えてしまった。


「おいっ! ちょっと、待てよっ!」


 義流は二人が消えた方を見て叫んだが、何も返事は返っては来なかった。


「くそっ……!」


 義流は未だ地面に伏している大地を背後に風花がクライオンと呼んでいた化け物と対峙した。


「さっきのはなんだったんだ? それになんか変な感じがする……」


 義流が自分の右手の甲を見ると皮下の血管が捻るのがわかり、血管が青白く発光し始めた。

 しかし、クライオンは義流の異変になんの躊躇も見せずに触手を槍のように、全身八本の触手を義流目掛けて突き出した。


「くっ!」


 義流は八本の内の七本をかわすことができたのだが一本は義流の顔面に飛来してきた。義流はなんとかその触手を右手で払おうとしたとき異変が生じた。


 義流が振り翳した右手から突風が生まれ、クライオンの触手諸共クライオン自身も突風で後方に吹き飛ばしたのだ。


「これが、《後継者》の力?」


 クライオンは住宅の壁に衝突し低い苦悶をあげながらも体勢を立て直し、今度は義流目掛けて突進した。


 義流はクライオンを睨みつけ、傍にあった空の錆びついたステンレスのバケツを蹴った。


 すると不可視な風が義流の足を旋回し始め、蹴られたバケツはクライオン目掛けて飛んでいった。


 バケツはクライオンが触手で防ぐにも勢いは止まらず顔面にクリーンヒットした。しかしバケツはただぶつかっただけではなかった。


 クライオンの頭蓋骨は砕け、奇怪な音を立てながらバケツはクライオンの体を貫通したのだ。


 からんころんと血を撒き散らしながらバケツは地面に転がり、クライオンの体は奇妙な切断というよりも真ん中から引き裂かれたような姿で絶命していた。


 白い息を荒げながら吐く義流は前方に自らつくりだした血塊とそれを囲うようにばら撒かれた人間の死体を見渡し、義流の思考は凍りついた。



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