第百五話 最初のチルドレン(一)
おひさしぶりです……
オリジナルは日本に五十年前現れた謎の超能力者。
オリジナルは全員で八人。
オリジナルの能力はそれぞれ自然の摂理、第八原則。
オリジナルの本体は全て死亡している。
オリジナルは己の分身を創りだし、今尚生き永らえている。
オリジナルの分身は自らの意思や本能を持っている。
オリジナルの分身は神出鬼没である。
オリジナルはある特定された人間をチルドレンへと変換させる。
オリジナルの正体は謎である。
これは、MBSなる組織がオリジナル達によって創立された少し後の話。
オリジナルの八人が突如全員死去(行方不明)しMBSが凍結された直後の話。
そう、日本で一番最初に捕獲されたチルドレンの少年の話である――――。
「はぁ、はぁ、はぁ、な、なんなんだよ、あれはっ!?」
少年の名は萱場義流。そう、萱場流騎の親縁、基、父親である。
義流は闇に染まる路地を一目散に走っていた。
季節が冬の所為か、鞄を握る拳は赤くなり、吐く息が白かった。
走りながら狭い路地に置かれたゴミ箱や立て看板を蹴飛ばしながら前へと進む。
その表情には焦燥、そして恐怖。
義流の頬には一筋の血が見える。まだ血が滲み出ているためその傷はまだ新しい。
義流が一体なにから逃げているのか。それは今から十分ほど前――――。
義流は地元の高校に通う普通の高校生。
中学三年の受験戦争になんとかぎりぎり生き残り、第一志望校に入ることができたのが去年の春のこと。
義流個人で変わった事といえばその昔堅気の名前と昔からやっているサッカーぐらいである。
義流が育った頃の日本ではサッカーブームが旋風を巻き起こし、数々の少年、少女がサッカーたるスポーツに燃えだした。
サッカー関連の漫画やアニメも爆発的なブームに見舞われ、サッカーブームが吹き起こる以前よりサッカーに身を投じていた義流は同年代の中でも飛びぬけて上手く、目立っていた。
しかし、義流はサッカー部には入らず、あくまでも趣味として止めておくことにしていた。
義流はかなり度の入った眼鏡をかけ、髪を全部前のほうへと流し、目も前髪の所為で隠れていた。側から見ると陰鬱そうな風貌をしている。
そんな義流が異変に見舞われたのは今朝のこと。
朝、目が覚めて起きてみると異様に体が軽く、頭が冴えていた。
「なんか、すっげー気分いいな、今日は。いいことあるかも」
義流は目覚ましのなる五分前で時計のスイッチを切って顔を洗った。
そして、そこでも異変は起きた。
なぜなら普段から眼鏡を着用している義流の視界が顔を洗った途端、急に良くなったのだ。
「あれ、眼鏡かけたまま寝ちまったのかな……?」
そう思い義流は顔に手を当てるが眼鏡はない。それに眼鏡をかけているなら顔は洗えていないはず……。
目の前の鏡を見てみても眼鏡の姿が見当たらず、それでも鮮明に視界を把握することができる。
「夢か……?」
義流は自分の眼鏡をベッド横の勉強机から取って、かけてみた。
「ぐおっ……」
義流は尽かさず眼鏡を外して、ベッドの上に放り投げた。眼鏡をかけた途端、視界が揺らいだのだ。
「まじかよ、つねっても痛くないし……」
その後、色々自分が今実際に起きているのか夢の中なのかを検証しているうちに時間は刻々と過ぎていった。
義流は、しかし、登校時間に間に合わなくなるので慌てて制服に袖を通して、寝癖も直さないまま自分の部屋から飛び出した。
下の階では義流の母親が
「ちょっと、義流、ご飯はいいのっ?」
「時間ないっ!」
義流はそう言いながら家から飛び出して学校へと向かった。
義流は学校に辿り着いたものの、知り合いの生徒達を視線を交わしても返事をされることは無く逆に変な視線を感じた。
―――なぜか背中が痛い。
そう義流は感じとった。
義流は不可解な感覚に見舞われながら自分の教室に入って自分の席に座った。
「も、もしかして義流!?」
義流の机の前に座る大人しそうな男子生徒が驚きながら言った。
「あ、ああ。なんだよ今頃かよ。俺、なんか悲しいぜ……」
「え、いや、だって。眼鏡かけてないし、それに髪も跳ねてるから」
「ああ、そっか。なんか視力が、起きたら良くなっててよ」
「へぇ、そんなことあるんだね」
「ああ、俺もびっくりだ。それより大地、お前今日分の宿題やったか?」
「う、うん。やったけど。まさか、またやってないの?」
「ああ、いいだろ?」
「まあ、いつものことだから……」
「悪いな」
そう言って義流は大地からノートを受け取った。
そのノートには刈谷大地と、名前欄に書かれていた。
義流登場ー