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燃えた夏  作者: Karyu
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第百話 刈谷の過去(三)


 俺は燃え広がっていく炎を見ながら、


「由梨ちゃん、とにかく逃げよっ。ここにいたら燃えちゃうよ!」

「う、う、うん……!」


 俺は由梨を連れて、あの橙色の髪をした少女とは反対方向へと逃げる。


 しかし、燃え広がる炎の勢いは凄まじかった。それに、俺達の足が遅かった所為でもあったんだろう、炎はすぐさま俺達二人に追いすがったきた。


 一瞬にして俺と由梨は炎に囲まれた。そしてばちばちと音をたてる大木が崩れて俺と由梨目掛けて落ちてきた。


「きゃあっ!」

「うわっ!」


 無駄だと分かっていても俺達二人は腕を目の前に掲げ目を瞑った。死を覚悟したのだろう、その時確かに走馬灯が走ったような気がしたが、二年生の時起こった走馬灯のことなんて忘れてしまった。


 しかし、何秒経っても俺の体に木に押しつぶされる衝撃も、周りで燃える炎の熱も、呼吸を苦しくさせていた煙の匂いも訪れなかった。


 俺は恐る恐る目を開けたら目の前には見知らぬ男女が立っていた。そして俺達は薄青い球状な結界の中にいた。外では未だに周りが燃えているのが分かる。


 俺は背後の由梨に振り返ると由梨も無事だったが俺同様に動揺しきっていた。

 俺達二人を見下ろしていた長身の男女は、といっても子供から見れば大人は皆大きかったが、いままで見てきた大人よりもこの二人の男女はモデル並に背が高かった。


 すると一方の女が、


「ほら、この子達すっかり怖がってるじゃない。あなたがそんな強面だからよ」

「関係ないだろ、俺の顔なんて。それに助けてやったんだ、礼ぐらい言ってもらいたいもんだぜ、まったく最近のガキはよ」


 もう一方の男が反論し、いっそうきつい目で俺達二人を睨んでいた。


「「あ、ありがとうございました……」」


 由梨と俺は震える口を何とか動かした。


「ほら、怖がってるじゃないっ!」


 女は男の後頭部に手套(しゅとう)を叩き込んでいた。


「いってぇな! 何しやがるっ!!」

「あー、うるさいうるさい。でも《(えん)(てい)》がいっていた通りね、今日はお宝がいっぱい♪」


 女は目を輝かせながら俺達二人を、いや俺達二人の心を見透かしていた。


「ああ、じゃあ俺はこっちの男の方をもらうぜ《風花(ふうか)》」

「ええ、いいわよ。じゃあ私はこっちのお嬢ちゃんをいただくわ」


 俺は身の危険を察知したのか、由梨を背中の方に回し、


「ぼ、僕たちに何をする気だっ!」

「ほお、威勢のいいガキじゃねえか。俺は嫌いじゃないぜそういうの。だがよ、この世界は弱肉強食、俺にはむかうには百年はええよ」

「もう、あまり乱暴はしないのよ《()(ばく)》。この子達はこの国の将来を担う大切なチルドレンなんだから♪」

「わかってるよ。おい、お前名前なんていう?」


 長身巨躯な大男が俺を睨みながら問いかけてきた。


 俺は崩れそうな心をなんとか立ち上がらせながら睨み返した。


「刈谷秀明……」

「秀明か。秀明、お前は生き永らえるか? この腐りきった世界で―――」


 男はそう呟き俺の胸倉を掴み高く持ち上げた。男、いや土熊は深い堀のある野獣めいた顔に彫りの深い憎たらしげな笑みを浮かべ、


「お前に土の力を授けてやる」


 そう言った。その途端、俺の体は激しく痙攣し始めた。体の奥底からなにかが湧き上がってくる。そんな感覚だ。心臓が壊れそうなほどの鼓動が俺の体を熱く叩き始めた。

 薄れいく意識の中、俺は横目で由梨の姿を捉えた。


 俺の状況をみて恐怖した由梨は少しずつではあるが俺から後ずさろうとした。


「怖がらなくてもいいのよ。さあ、あなたのお名前を教えてくれる。かわいいお嬢さん?」


 由梨は激しく首を横に振り、女の手から逃れようとした。


「に、にげて……ゆ、由梨ちゃん……!」

「へぇ、由梨ちゃんって言うの。かわいい貴女は自分を貫き通せる? この乾ききった世の中を―――」


 由梨も女が掲げる手の中で俺と同じ風に激しく痙攣し始めた。声に出せないほどの嗚咽を漏らしながら―――。


「ふぅ、満足だ。こいつは意外と大物になるかもな。あばよ、坊主、いや秀明」

「私も……。ありがとね、由梨ちゃん♪」


 風花と土熊が霞むかのように消えていき、俺と由梨は結界の外の大地に伏した。体に力が入らない。


 俺はなんとか体を這い、由梨の傍まで近付いた。


「だいじょうぶ、由梨ちゃん?」

「うん……。だいじょうぶ」


 俺達は無力でその場に伏した。周りでは未だに炎が激しく木々の間を舞っていた。

 俺はその光景をみながら、こう呟いた。


「必ず助けてあげるから……」


 それは由梨に向けられたのかそれともおれ自身へなのか、はたまたあの橙色の髪をした少女へと向けられていたのか、俺には未だにわからない。



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