プロローグ
それ?はどこにいるのだろうか。
森の中にいるのだろうか、いや山の中にいるのだろうか、はたまた川を谷を越えた誰もいないような場所にいるのだろうか。
それは人の形をした人非ざるものである……。
人気がない場所にある小屋の中では、暖炉にくべられている火が怪しく、また妖艶に明かりを灯している。
その前には一匹の黒猫と一人?の女の子が隣同士で並び暖炉の火を見つめて座っている。
齢15歳くらいに見えるであろう女の子は金髪碧眼で真っ白なワンピースを身にまとい左手には真っ赤な液体の入ったワイングラスを持っている。
「他人の不幸は蜜の味ね。 とっても甘美でそれでいてこの世にありふれているのだから」
女の子は、そうつぶやき隣であくびをしている黒猫に話しかけるのだ。
「マリアは本当に悪趣味だよなぁ~、なんでこんなババァに可愛いくて愛くるしくって人々にモテモテな僕が仕えなきゃいけないのだろうか……」
黒猫は気怠そうにそうつぶやいてから主である女の子に顔を向ける。
「あら、嫌だったらそこら辺で野垂れ死ぬといいですよ。 クロは私がいなければ何にも出来ないのですから」
マリアと呼ばれた女の子はクスクスと笑いクロと呼ばれた黒猫の首をつかみ目線がちょうど平行になるところまで持ち上げて最高の笑顔を作ってからつぶやく。
「それとだれがババァだって? 今夜のご飯の具になりたくないのだったら今すぐ謝りなさい。 気分次第では助けてあげないこともないけど」
「目が笑ってないよマリア。 怒ると年を取るし顔にもしわが増えるって何処かの誰かさんがいってたよ」
「あら、私が老けておばさんになるとでも?」
「さぁ~? そんなの心がけ次第じゃないのかな? 人間は事故以外で死ぬのは病気かまたは老衰だろ? 時たまそうじゃない奴らもいるけどね」
「つまりは何が言いたいわけ?」
相変わらず目が笑っていないマリア。クロはニタニタしながら言う。
「つまり心が醜く汚れてしまっていたり、人によってはストレスなどで苦しんでそれによって病気になったりするわけだから心がとぉ~ても綺麗でストレスもため込んでいないマリアには老いもなにもないというわけさ」
少し考えた後に何を思ったのかマリアはつぶやく。
「ふぅ~ん……、 クロにしてはいいこと言うじゃない。 私ほどの女になると心は清くたとえどんなことがあろうとも許せてしまう心の広さがあるものね」
まんざらでもない顔をしてクロを地面に下して微笑むその顔は先ほどの目の笑っていない笑顔でわなく本物の天使そのものみたいな笑顔ある。
(ちょろいな……)
心の中でちょろいババァだなと思いつつ今後のことを聞いてみることにしたクロはマリアの機嫌を損なわないように文字通り猫なで声で問いかける。
「ところでこれからはどうするんだい? この村での仕事は終わったことだし次はどこの村に行くんだい?」
あまり面倒な仕事に行くのは非常に自分の仕事が増えたりと色々迷惑千万なので機嫌のいい時にこの話をクロはマリアにふり可能な限り楽な仕事をチョイスしてもらう事にしている。
「そうね……。 次はあそこにしましょう」
そう言って立ち上がって机の上に置かれた数ある封筒の中にある一つを取出しまた暖炉の前に戻りクロに見せる。
「なになに……、 ロクサーヌ村に不幸な人がいるよ! マルクスより。」
ただそれだけが書かれている手紙にクロは顔をしかめる。明らかに嫌そうな顔をしているのは言うまでもない。
「ねぇマリア、 これは今度にしない?」
「あらなんで? せっかくマルが送ってきてくれた情報なのよ?」
可愛く首をかしげるマリアは頭の上にはてなマークを浮かべているであろうとクロは思う。
「だってあいつが持ってくる情報って変なのばっかりだしそれにとってもとぉ~っても面倒なことが多いんだもん。 たまにはブラブラして適当なところをあてもなく旅してみるのもいいんじゃない?」
マリアは少し考えたがすぐにクロに向き直って話す。
「それもそうね。 じゃ今回はあてもなくさまよいましょう。」
心の中でクロは大いにガッツポーズをして喜びの踊りを踊るのだった。
片手に持っていた飲み物を一気に口に流し込み二人は旅の身支度を整えるのであった。