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買ってきた服に着替えた私は、すぐに工房を飛び出したリリカの後を追いかけた。
リリカは少々急ぎ足でリーゼガングの第二の門をくぐる。私もそのあとに続く。そしてリリカが向かったのは商店街からそれほど離れていない飲食店街だった。
日はすでに沈んでいた。それにもかかわらずこの一帯は大きな賑わいを見せていた。露店で飲食物を売っては、それを購入し、近くのベンチやテーブルなどに座って食べているカップルなどが多く見受けられる。
そのような中をリリカは他のカップルに目もくれず飲食店街を突き進んでいく。その行動には何も迷いは無かった。すでにエルウィンの行動はお見通しの様にも見える。実際、リリカは一件の飲食店の扉の前で足を止めた。
「ここに・・・あいつがいるの?」
「そうです!さぁ、行きますよ!とにかく早く連れ帰るのです!」
そう言ってリリカはお店の入り口の扉を勢いよく開けた。
「親父!おかわりくれ!」
「エルウィンの旦那、そんなに飲んで大丈夫か?またお弟子さんにしかられるのが目に見えてるぞ。」
「大丈夫!やっと大きな仕事が終わったんだ。だからその報酬でお金も十分にある!ちょっとぐらい飲んでも何とも言わんよ!」
「へー、ずいぶんと余裕ですね師匠!」
テーブルの席について数人の男達に囲まれ、木製のコップに注がれた飲み物を豪快に口の中に流し込むところを、私とリリカは目撃した。
間違いない。
この賑わい。
このにおい。
ここは酒場だ。
エルウィンは工房のソファーで眠った後、この酒場にやってきてお酒を飲んでいたのだ。
「よう、シズクじゃないか!お前も一杯飲んでいくか?」
「私は無視ですか、師匠!」
「いや、私はまだ18歳で未成年だからお酒は飲めない。お酒は20歳にならないと飲めないの。」
「シズクさんも、普通に回答しないでください!」
「おい、エルウィン、この子がさっき言っていた外国のお嬢ちゃんか?可愛いじゃねぇか。ちゃんと紹介してくれよ!」
「だから私を無視しないでください!」
1人この状況にいらだっているリリカをよそにエルウィンは私に話しかけ続ける。
「その、20歳にならないと飲めないのはニホンとかいう国の決まりなのか?この国、リーゼガングは18歳から酒を飲むことが許されているんだ。だからお前も遠慮しないで飲んでみろ。」
「じゃ、じゃあ、一杯だけ・・・。」
そう言って私の元に運ばれたのは、黄色い泡立つ液体の上を白い泡が覆い被さっている飲み物だった。ん?これはどこかで見覚えがあるような。私は周りにいた男達に訪ねる。
「これは・・・なんていうお酒なんですか?」
「それは麦酒と言って、小麦を発酵させて作った発泡酒なんだ。この泡と、液体ののどごしがたまらなくおいしく、何杯でも飲める酒だ。お酒初心者のお嬢ちゃんでも飲めるだろ?」
間違いない。これはビールだ。
私はそのビールを一口飲んでみた。
ふわりとした白い泡が口の中で溶けだし、その後に流れてくる液体が炭酸のジュースのように喉に適度で心地よい刺激を与えてくれる。
・・・おいしい!
私はそのままコップに入ったビールを一気に口に流し込んだ。