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「よしっ!これでトドメ!」
私は目の前の野獣を思いっきり切りつけた。野獣は断末魔の叫びを上げてその場に倒れた。ピクピクけいれんのような動きを見せるが、もう起き上がることはないだろう。
「あとは!?」
私は周りの仲間に叫ぶように声をかけた。
「シズク!後ろだ!」
「えっ!?」
アーカムの声に反応して振り返ると、そこにはすでに飛びかかり、目の前まで迫っている魔獣の姿があった。
「きぁぁあああっ!」
私は思わず叫び声を上げた。だが、実際に野獣に襲われる事は無かった。野獣のキバが私に届くより先に遠くから放たれた弓矢が野獣を貫いていた。
余りの恐怖にその場に座り込んでしまう私。情けない。もう傭兵としてもうすぐ1年が経とうとしているのに。
「大丈夫か、雫?」
話しかけてきたのはその弓矢を放った信也だった。彼も私と同じ日本人。私と同じようにこの世界に迷い込み、その弓の腕を買われ、エルフの村で長い間過ごしてきた。弓の腕が立つのは彼がアーチェリー部に所属していたためだ。
「あ、ありがとう、信也君。。。」
「立てるか?」
「あ・・・ごめん、腰が抜けちゃった・・・。」
私は信也君が差し出した手をつかんで、何とか起き上がることができた。
彼が人間の街に住むようになったのは最近のことだ。私がエルフの村で病気で寝込んでいたとき、ずっと世話をしてくれたのは信也君だった。私は彼が日本人だと知ると、エルフの族長に頼み込んでリーゼガングの街に移り住んだ。それ以来、彼も傭兵として生計を立てている。
今回の野獣退治はアーカムの誘いがあったためだ。そして同じ傭兵仲間である私と信也君に声をかけてきたのだ。
「これだけ倒せば大丈夫だろう。報酬もらって帰ろうぜ。」
新たな仲間を得た私たちは日々の生活のために傭兵業に勤しんでいた。
「はぁ・・・また情けない姿見せちゃったな・・・。」
「そんなことないですよ、雫先輩。あれだけの剣術を持っているのはすごいことです。」
「そ、そうかなぁ。」
まぁ確かにこの刀を得物としているのはこの世界で私だけだろう。
「それよりも信也君、この生活にはもう慣れた?」
「はい、フィーナ先輩も面倒見てくれていますし、何とかやって行けそうです!」
「そう、それは良かった。フィーナも面倒見が良いからね。」
その後、私たちは野獣を倒した報酬をもらい、リーゼガングの街へと戻ってきた。
そして、報酬を山分けした私は、アーカムや信也君達と別れ、エルウィンとリリカのいる工房へと戻ってきた。
「お帰りなさい、シズクさん、もうすぐ夕ご飯できますから少し休んでてください。」
「あれ?あのバカは?」
「師匠ならいつものように工房に篭もって仕事中です。」
「そう。了解。あーお腹すいたー。」
元の世界に戻る手段がない今、このような日常がずっと続くと思っていた。
あの日が訪れるまでは。




