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ファナの雑貨屋を後にし、再びリリカに連れられてリーゼガングの待ちの中を歩き出す雫。
その方向は町の中心部である商店街や住宅街からどんどん離れていき、たどり着いたのは一件の鍛冶屋であった。建物の壁には煤で真っ黒に染まっていた。定期的には掃除はしているのだろう、そのような跡は見て取れるが、それでも汚れの方が頑固なのか、落ちきれずに残っている。周りにも同じような建物がある事から、ここはこういった職人たちが集まった職人街なのだろう。
リリカはその鍛冶屋の扉を開ける。開けた瞬間、扉の中からとてつもない熱風が二人を襲う。雫はあまりの熱さにひるんでしまうが、リリカはそんなことはかまわずに建物の中へと入っていった。
「こんにちわー!頼まれた物持ってきましたー!」
「おっ、やっときたか!これが無いと仕事にならないんだよー!」
二人の前に現れたのは赤い髪を後ろで縛ったポニーテール姿の女性だった。その顔は煤で黒く汚れている。服装もタンクトップと半ズボンといった軽装で、それでも熱いのだろうか、タンクトップは汗で素肌が透けて見える。
「うん、頼んでいたインゴット、確かに受け取ったよ。」とリリカは銀色に光る、長方形の金属の塊を渡す代わりに金貨の入った袋を受け取った。
「へぇ、あの人、こんなものも作っているんだ。」
「おや、あんたは見ない人だね。着ている服も見たことないし。もしかして遠くから来た外国人?」
「まぁ、そんなものです。いま私たちの工房で一緒に住んでいるんですよ。シズクさんっていいます。っていっても出会ったのはほんの数日前ですけどね。」
「初めまして。雫です。それにしてもこんなところで女の人も働いているんですね。」
「まあね、あ、私の名前はリーズ。ホントは鍛冶屋は男の職場だから私みたいなのはちょっと珍しいかもね。とはいってもまだまだ腕は未熟だし。親方にいろいろと教わりながらっていう修行中の身さ。」
「おい!リーズ!いつまで油を売っているつもりだ!」
工房の奥から男の人の怒鳴り声が聞こえてきた。おそらく今の声が彼女・リーズが言っていた親方なのだろう。
「あ、はい!今行きます!ごめんね、今忙しいから。」
「いえいえ、お仕事頑張ってくださいね!」
リリカに見送られて、リーズは金属の塊を両手に抱えて走って工房の奥へと消えていった。
「ふう、熱いから早くここを出ましょう、シズクさん。」
「あ、やっぱりリリカもそう思ってたんだ。」
そう言って私たちは急いで工房の外に出た。
工房の外に出ると、職人街の間を通り抜ける風が、私たちの体にこもった熱を奪っていき、非常に心地いい。
「うー、汗でべとべとー。」
それほど中は熱かった。リーズも姿を現した時は汗で服が透けていた。私でさえちょっと中にいただけでこれだけの汗をかいたのだから、この中で働いているリーズ達はもっと過酷な環境で仕事をしているのだろう。
「そうですねー、正直私もあの場所はちょっと苦手です。でも仕事だから仕方ありません・・・。」
「リリカも大変な思いをしていたんだね・・・。」
そんな会話を交わしながら私たちは職人街を後にした。