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俺たちがエルフの村に入ってから半日が過ぎただろうか。日はすっかり落ち、森の中は暗闇の静寂に包まれていた。
俺たちはシンヤのはからいで簡易的な夕食を済ませることができた。
しかし、肝心のシズクの様子は相変わらずのままだ。
俺は部屋の前で待つシンヤに声をかける。
「おい、解毒剤はちゃんと効いているんだろうな?あれから半日も過ぎているが、シズクの症状は一向に変わる気配がないぞ。」
「・・・おかしいな。エルフの村から使われている薬だから効かないはずは・・・。」
「・・・実績はあるんだろうな。」
「も、勿論だ。俺もこの薬を使って治療したことがある。この身で確かめたんだ。間違いない!」
「・・・お前もエルフに狙われたんだな。」
「・・・その通りだ。」
「とりあえず、このまま朝まで待ってみよう。それでも症状が改善されないならば何か手を考えよう。」
そう言って俺は部屋の中に戻って行った。
次の日。
やはりシズクの症状は改善されなかった。
「おい、どうなっているんだ!シズクが目を覚まさないぞ!」
俺はいらだちの余りシンヤに向かって大声で怒鳴りつけた。
「待ってください、師匠。この症状は・・・ひょっとして・・・。」
部屋の中からシズクの世話をしていたリリカが俺に話しかける。
「・・・待ってろ、俺も看る。」
俺もシズクの状態を詳しく調べた。高熱。呼吸の荒さ、脈拍、これらの症状はシンヤの毒矢の症状と似通っていたが、そのときの症状とは明らかに違っていた。
いや、もっと具体的に言えば、この症状には見覚えがある。
時期としては5年前だっただろうか。
リーゼガングの都市内全体で流行始めた伝染病だ。そのときの状態とシズクの症状が似ている。
あのときの出来事は今でもはっきりと覚えている。
手元にあるあるあらゆる薬が効かず、次々と病に倒れていく人々。そしてそのまま症状が完治せず命を落とした者も出始めていた。
国は町中の医師に病気の原因と治療法を調べるよう命じたが、症状を改善する治療法は見つからなかった。ただ原因は伝染病だという事だけはわかった。これによって、病に倒れた者は街の中の寺院などの施設に隔離することになった。
俺がこの伝染病と立ち向かったのはリリカがこの病にかかってからだ。
俺は手元にあるあらゆる錬金術の資料を読みあさった。そして見つけたのは、母親が残した錬金術の資料に挟まれていた小さな紙切れだった。
俺は半信半疑でそのメモに書かれていたレシピ通りに薬を作成し、リリカに試してみた。その結果、リリカは次の日には熱も下がり、症状は明らかに改善されていった。
その日から俺は多忙の日々が続いた。
同じ薬を病人の数だけ作り続けなければならなかったのだ。幸いにも材料採取には騎士団が総動員されて収集されたため、俺は薬の調合だけに専念できた。
その結果、伝染病は完全に克服することに成功した。国王からは多額の報酬をもらい、しばらくは何もしなくても生活に困らなかったほどだ。今思い起こせば王子ニルードとのつきあいもこの頃から始まったのかもしれない。




