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「シズク。」
「ん?」
「汗臭いね。」
突然のフィーナの発言に私は拍子抜けした。
「仕方が無いでしょ。リーゼガングを出てからお風呂に入っていないんだから。それを言ったらフィーナだって結構汗臭いわよ。」
でもこれが普段のフィーナだ。このようなときでも普段通りでいられるのはなかなかできることではない。無事フィーナを逃がすことができるのかどうか。いや、その前に自分は生きてリーゼガングへ帰ることができるのか。
正直私はものすごく緊張している。
しかし、フィーナの言葉で少し緊張が和らいだ。
そうか、フィーナは私たちを気遣って・・・。
「もう少し緊張感を持てよ。これからが大事なときだって言うのに。」
「えへへ・・・。」
・・・やっぱりよくわからない人だ。フィーナは・・・。
「見張りが後退する時を狙うんだ。そのときが一番防備が手薄になる。予定ではもう少しすれば交代の時間なんだが・・・。」
野営の見張りは傭兵達が交代で行っている。そして交代の時間になると、見張りをしていた傭兵が眠っている交代の見張りの元へ行き、起こすという行動を取る。アーカムはそのときが一番見張りが手薄になり、脱出が容易であると判断したのだ。
確かに私もその通りだと思う。私が見張り役をやったときもそうだった。
私たちは今、馬車の陰に隠れて見張りに見つからない位置にいる。そして、傭兵が見張りの交代を始めたとき、一気に物陰から飛び出した。
「おい、そこで何をしている!」
「ちっ、見つかったか!」
当然だ。見張りは1人とは限らないのだ。
私はすかさず、その傭兵の元へと近づき、手にしていた刀を抜いて切りつけた。
「ぐあああっ!」
「どうした!?何があった!?敵襲か!?」
私の後方で殺気の声を聞いた傭兵達が一気に騒ぎ始めた。
「・・・まぁ、こうなるのはわかっていたけど。」
フィーナがいなくなることがバレるのは時間の問題だ。とにかく事がバレる前にここから離れて時間を稼ぐしかない。特に注意するべきはあのゲイルだ。やつには私たちでも敵わないだろう。出会ってしまったら作戦は失敗だ。最悪の場合、殺されることも考えられる。
それはフィーナも例外ではないだろう。そのリスクを背負ってでもフィーナは私たちに付いてきてくれた。こうなったら彼女だけでも遠くへ逃がさなければならない。
「はぁ、はぁ、ちょっと、待って。」
フィーナが息切れを起こした。
「まずいな、こんなところで休んでいる暇はないのに。」
振り返ると、遠くの方で明かりが見える。おそらくもうフィーナがいないことに気がついているだろう。
「こんな事なら馬の一頭ぐらいかっぱらってくれば良かったぜ。」
確かに、フィーナの体力は計算に入れていなかった。そして、目の前に視線を向けると最悪の事態が私たちに迫っていた。




