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地図上の赤い印に向かって走り出すこと、およそ10分。
あたりは酒場のあった繁華街とはうって変わって、人気の無い倉庫街へと変わっていった。先ほどまでは建物の窓からの明かりで、夜でも通り道は明るく照らされていたが、ここではそういった明かりも無く、ほぼ真っ暗闇に近い。エルウィンが取り出した松明(これも錬金術で作られたもので、ちょっとやそこらじゃ簡単には消えないらしい。)の明かりを頼りに倉庫街をエルウィンと共に駆けていく。
やがて地図上の赤い印の地点に近づくと、わずかな明かりと人影が確認できた。ちょうどいい。あの人にあのバカ王子の事を聞いてみよう。近づいて話しかけてみる。
「あのーすいませ」
「このバカ、静かにしろ!」
エルウィンの言葉が私の言葉を遮った。
なぜ?どうして?
しかし、物事はそのような事を考える暇も無く進んでいった。
私の声に気がついたのだろうか、明かりの側にいた人影はこちらの存在に気がつくと、腰につけた鞘から剣のようなものを取り出し、こちらに向かってきた。それと同時にエルウィンは私の走る進路を遮るように割り込み、エルウィンの腰につけた鞘から剣をつかみ引き抜くと同時に、こちらに向かってきた人影を切りつけた。
その人影は背丈はエルウィンと同じか少し大きいぐらいの大男だった。その大男はお腹から血しぶきを吹き出し、男が取り出した剣、刀身が背の方へ大きく曲がった片刃刀、シャムシールを振りかざしたまま後ろに倒れた。
ほんの一瞬の出来事だった。
その光景、目の前で人が血しぶきを上げて倒れる光景に恐怖し思わず悲鳴を出すところでエルウィンは私の口を手で塞いだ。
「落ち着け、シズク、ここで大きな声を出すな。まずは深呼吸しろ。」
エルウィンに言われるがまま大きく息を吸って、大きくはき出した。
「落ち着いたか?手を離すぞ。」
そう言われ、私は小さく2回うなずいた。そして、エルウィンは私の口から手を離した。
「な、なんで、こんな事が起こったの?」
「お前バカか?こんな人気の無いところにあのバカ王子がションベンしにくるとでも思ったか?ここに来たとすればアイツは誘拐されたんだよ。こいつはおそらく見張りだ。そしてバカ王子はあの倉庫の中に捕らえられているはずだ。それよりお前、人間を斬ったこと無いだろ?」
図星だった。
今まで戦ってきた相手はみな野獣だった。木刀で人間相手に訓練したことはあっても、実際に真剣で人間と相手に戦ったことは無い。エルウィンの問いかけに返す言葉も無い。
「シズク。お前、ここでまっすぐ工房まで帰れ。ここは人間との戦いになる。人を斬れないのなら帰れ。足手まといだ。」
・・・なんかむかついた。足手まとい?ここで帰れだと?
「冗談じゃ無いわ!私も戦う。足手まといだなんて言わせない。」
「・・・ふん、じゃあ、死なないようにな。お前まで面倒見る余裕なんて無いからな。」
「上等よ!あんたの手を借りなくたって戦い抜いてみせる!」
「・・・わかった。」
そう言ってエルウィンは明かりの灯った倉庫の入り口に立った。
「乗り込むぞ。準備は良いか?」
エルウィンの問いに私は大きくうなずいた。
「よし、いくぞ!」
「ええ!」
エルウィンは倉庫の重い扉を思いっきり蹴り開けた。




