8
私は剣道有段者だ。
都内の剣道大会でもそこそこ上位入賞を果たしたこともある。
そのために私がしてきたこと。
それはひたすら練習すること。
誰もが竹刀に触れてすぐに剣道ができるわけでは無い。
誰もがギターに触れてすぐに弾ける物では無い。
誰もが車のハンドルを握ってすぐに車が運転できるわけでは無い。
そうだ。私にはとにかく練習するしか無いんだ。
そう思い立った私は夜が明けるとすぐに刀を握り振り続けた。
斬れるまで、何度も、ずっと。
しかし、全く成果が出ることは無かった。
「どうして・・・どうしてなの・・・?」
「シズクさん・・・。」
リリカは心配そうに私を見つめる。
エルウィンはそんな私を見て鼻で笑っては、また工房に篭もっている。
何かが足りない。
しかし、それが何かは全くわからない。
「よっ、シズク!調子はどうだ?・・・って良くは見えないよな・・・。」
私が1人落ち込んでいるところに現れたのは刀を作った刀鍛冶、リーズだった。
「リーズ、教えて。今の私じゃ斬れる物も斬れない。私に何が足りないのか、教えて!」
私は藁にもすがる思いでリーズの腕を握りしめた。
「私は剣の師匠じゃ無いんだけどなぁ。そもそも私よりシズクの方が詳しいんじゃ無いのか?」
「それでも斬れないの!このままじゃ私・・・せっかく作ってもらった刀を使いこなせない・・・。」
「・・・わかったよ。力になれるかどうかわからないけど・・・とりあえず、どんな感じか見せてくれるかい?」
私は再び綿の束を縛り付けた木の棒を地面に突き立て、それに向かって力一杯刀を振り下ろした。当然のことながら藁は真っ二つには斬れず、刀は藁に食い込んだ状態で止まった。
「シズク、力が入りすぎているんじゃ無いのか?」
「えっ?」
私は刀を握りしめたままリーズに問い直す。
「前も言ったようにこの剣は、この剣を扱うには相当の技術が必要になる。ただ力任せに剣を振るうだけじゃダメなんだよ。もっと力を抜いて振ってみたらどうだ?」
その言葉を聞いて私は今までとんでもない過ちを犯していたことに気がついた。
そう、とにかく刀を力任せに振り回していたのだ。
ここは一度、剣道の基本に立ち返らなければならない。