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「これが・・・『刀』・・・。」
私はその『刀』を手に取ってみた。ずっしりと重い。でも、親方やリーズ、鍛冶場のみんなの重いが伝わってきたような気がした。その重みもこの『刀』に込められている。そんな気がしてきた。
「とにかくやれるところまではやったつもりだ。あとはこの剣を使う使い手次第だ。」
と親方の1人が私に告げる。
「作ってみて気がついたことなんだが、他の剣は、剣とは言っているが実際は『たたき切る』、というイメージがぴったりなんだ。でもこの剣は『斬る』事に特化している。それを使いこなすにはそれなりの熟練が必要だ。嬢ちゃんがそれだけの腕を持っていることを期待しているよ。」
私は今まで剣道を習っていた。だからこの真剣を持っても簡単に扱えると思っていた。だが、その思いはこの後簡単に崩れ去る事になることは思いも寄らなかった。
私が工房に戻るときにはエルウィン達がすでに採取から帰ってきていた。
「シズクか。どこ行ってきたんだ?ん、なんだ?その剣は。見たことの無い剣だな。」
「へへへ。これが私だけの新しい剣。これがあれば私だって採取に連れてってくれるようになるわよ。」
「へー、それじゃあ、実際に扱って見せてもらおうか。」
そう言ってエルウィンが用意したのは藁の束を木の棒にロープで縛り付けたものだった。エルウィンはその木の棒を地面に突き立てた。
「この藁を斬ってみろ。」
「なによ、それくらい簡単じゃない。見てなさい!」
「ほう、じゃあ、じっくり見物させてもらおう。」
私は刀を構え、大きく振りかぶった。エルウィンはリリカと一緒に傍らでその様子を立ったまま腕組みをして眺めている。
だいたいこんな動かない物を斬るなんて簡単-
そう思って私は振りかぶった刀を斜めに思いっきり力任せに振り下ろした。
そうすれば木の棒に縛り付けられた藁は真っ二つ、になるはずだった。
しかし、実際は刀は藁を途中まで切りつけたところで止まってしまった。
「えっ、どうして!?」
「ふん、そんなもんか。これじゃあ、採取には連れて行くことはできないな。」
そう言ってエルウィンは工房の中へと消えていった。リリカは心配そうに私の側に駆け寄る。
「大丈夫ですか、シズクさん?」
「おかしい・・・こんなはずじゃ無いのに・・・私の何がいけないの・・・?」
私は刀を何度も振りかぶっては藁を切りつけた。しかし結果は何度やっても同じだった。藁は真っ二つに割れる事無く、刀は藁を切りつける途中で止まってしまった。私は剣道を続けていた。段位も持っている。だから真剣を扱うことになってもこれくらいは簡単にできると思っていた。でもその思いは簡単に砕けてしまった。
「いったい・・・どうして・・・?」
「シズクさん、ちょっと休憩しましょう・・・。」
一体どうすれば良いのだろう?
その夜はそのことだけで頭がいっぱいで一睡もできなかった。