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私がこの世界にやってきて1週間が過ぎた。
未だにこの世界がどんな世界なのか、なぜ私がこの世界にいるのかもわからない。
そんな状況の中、私はリーゼガングという都市に住むエルウィンという錬金術師の青年に拾われた。今はその錬金術師の工房で弟子のリリカという少女とともに暮らしている。
私のお母さんやお父さんは心配しているだろうか?親友の優香は元気に暮らしているだろうか?そんなことを考えながら私はエルウィンの仕事の手伝いをしながらこの世界で1週間を過ごしてきた。
ちなみに私やリリカはエルウィンの仕事場には入ったことがない。許可なしに入ってはいけないというルールがある。ちょこっとドアを開けて中をのぞいてみようとしただけでもエルウィンに怒られてしまった。これはリリカも同様らしい。
従ってここでのお手伝いというのはエルウィンの身の回りの世話がほとんどだ。食事を作ったり(とはいっても私ができるのはリリカのお手伝い程度だが)、洗濯をしたり、部屋の掃除をしたり。そして調合の仕事があればできあがった納品物を発注元のお客さんの元に届けるという仕事がある。
そんな生活にも慣れ始めたある日の朝のことだった。
いつものようにテーブルに座って朝食のスープとパンを食べているときである。エルウィンがリリカに向かって話し始めた。
「リリカ、昨日発注があった依頼の件だが・・・いま手元にある材料では必要数に足りない。」
「ということはまた採取に出かけないとだめですね。」
「採取?」
私はリリカに訪ねた。
「そうです。材料が足りないときは町の市場でも調達できるのですが、一部の材料はこの町、リーゼガングの外まで足を運ばないと手に入れることができないんです。」
「採取は俺とリリカの二人で行く。シズクは留守番だ。」
朝食を終えお茶を飲みながらエルウィンは冷たく言い放った。
「どうして?私も連れて行ってくれたっていいじゃない。」
「手短に言う。おまえが来ても足手まといだ。おまえと俺が初めて出会ったときのことを忘れたわけじゃないだろう?おまえは何もできずにいた。俺たちが偶然近くにいなければおまえは野獣のエサになっていたんだ。」
「そ、それはわかっているけど・・・。」
「そういうことなんです。すいません、シズクさん。」
深々と頭を下げて謝るリリカ。いや、リリカはなにも謝る必要は無いから!
「期間はだいたい2週間ぐらいになるだろう。その間留守番を頼む。」
「に、2週間も!?」
「大丈夫です。食事は作り置きしておきますから。暖めればすぐに食べられるようにしておきます。」
いや、そういう問題じゃなくて!
「2週間も一人でここにいろってこと?」
「・・・そう思ってな、おまえには特別に仕事を与えようと思う。こっちに来い。」
そう言ってエルウィンは席を立ち、自分の仕事場へと入る。
私もその後についてエルウィンの仕事場へと入った。
そこは窓のない真っ暗な部屋だった。テーブルの上に置かれたランタンが唯一の明かりだ。
そしてそのランタンによって私の目に飛び込んできた光景。それは・・・
埃にまみれた部屋だった。