第四話
次に団長が私を連れてきたのは、訓練場。多くの団員達が訓練する中で、団長に連れられ訓練場の中にある武器庫へと進む。沢山の武器を見て、私は興奮した声を上げる。
「おぉ…!」
「この中から自分に合った武器を選んでくれ。何個でもいい」
団長の言葉により一層目を輝かせ、ゴソゴソと武器を漁る。様々な武器を手に取り構える。いやぁ、あっちの世界でも、レプリカとか振り回して遊んでたなぁ。懐かしい!そんなこと思いながら奥の方をゴソゴソしていると何かを見つけた。
「お?これ…日本刀?」
私の手にあるのは、日本刀のようなもの。しかも黒い。
「ニホントウ?それは白露だ」
「黒なのに?」
その言葉に首を傾げる。真っ黒な剣なのに白露。団長はその疑問に笑って答えた。
「その剣は元は白だったんだ。だが職人が何を思ったのか、綺麗な仕上がりの白い剣を黒に染め始めた。どうやら完成したのを見て気に入らなかったらしい。で、黒に染めたんだと。名の由来は、黒の下にある白が露になる位まで使って欲しいという職人の思いから来ているそうだ」
その話を聞いてまじまじと白露を見る。真っ黒の剣の下に、真っ白の剣が眠っている。私は今、おそらくニヤリと笑っているだろう。剣を鞘にしまう。そして腰にぶら下げる。
「これ貰う」
剣を撫でて笑顔で団長に言う。
「あぁいいぞ。だが…それ、物凄く扱いにくいと評判なんだ」
「ないもんね。この型の剣」
「あまり、お勧めしないな」
「いいじゃん。誰にも扱えない剣。いいねぇカッコいいじゃない」
そう言ってニヤリと笑う。何を言っても無駄だと悟った団長は、そのまま武器庫を出る。武器庫を出た瞬間から皆から注目されている事に気が付いた。その視線は全て、白露にある。
「出たよ。あいつもその類か」
「またか…よく新人が選ぶ剣。結局、誰も扱えない。あいつ終わったな」
その話し声を聞いてニヤリと笑う。私には、白露を扱える自信があった。特に何をしているわけではない。だが、直感でそう思った。そんな私に団長は言う。
「いきなり試合に入るが」
「どうぞ」
「誰か手が空いている奴はいるかー」
団長はそう呼びかける。誰も名乗り出ない。困ったような顔をする団長は、私を見た。正確には、白露を見た。
「…お前、武器を変える気はないか」
「全く」
その原因が武器にあると考えた団長は、ダメもとで尋ねてきた。しかし、思った通りの回答に苦笑する。団員達を見回すが、特にこれといって特徴のある者はいない。強そうな者もいない。誰も名乗り出ない状況に困った団長は溜息をついて大きな声で言った。
「ミシェル!!いるか!」
団長の声が訓練場に響く。そして、一人の男が団長に近づいてくる。筋肉質で、身長が高い男。団長も高いほうだが、男は団長よりも数センチ高い。私とは、20センチ以上も差がある。この世界の人はデカいんだけど。
「なんだよ」
「コイツの相手を頼む。誰もいなくて困っていたのでな」
「…このチビの?俺が?」
私を見て鼻で笑うミシェル。私は笑顔を保ったまま。ちっ。なんだよこのおっさん。あぁ?なんか文句あんの?チビで結構。チビの方が利益あるんですよ。
「暇潰し程度の感覚で構わないから。どうせ、その余裕はすぐに無くなるぞ」
「何?」
団長の小さく呟いた後半部分を聞き逃さなかったおっさん。おっさんは眉を寄せて私を見下ろす。何?背が高いアピールですか?自分よりも小さく、小柄で、見るからに弱そうな少女相手に余裕がなくなると。ありえない。そう、おっさんは言いたいわけですね?その目が言ってますよ。
「レート。俺がこいつ相手に余裕がなくなるってのか?」
「あぁ。多分、そいつキレてる」
そう言って私を見た団長の目に映ったのは、笑を絶やさない私。もちろんキレてます。そして、おっさんが喋るたんびにきれてってます。団長は私の笑みを見て、微かに顔を青ざめさせた。
「ふぅん…まぁいいだろう。用意は出来ているか」
「はい。よろしくお願いします。ミシェルさん」
こちらに振り向いたおっさんに、礼をした。こうして、注目の試合が始まった。剣を抜いた私に対し、おっさんは木の剣。ハンデとしておっさんは斬れる剣を使わない。勿論、今私が持っている白露は斬れあじ抜群だ。私は背筋を伸ばして、両手で柄の部分を握る。
「では、始めッ!」
団長の掛け声とともに、両者とも走り込む。走っている途中で剣の持ち方を少し変えた。右横に流すように剣を下ろす。そして、おっさんが近づいて来たその瞬間、勢いよく突きを放つ。しかし、それは受け止められる。しかしニヤリと笑って、しゃがむ。
「なッ」
おっさんはその行動に驚くも、剣を勢いよく振り下ろした。頭上で剣を右斜め下に持ち、おっさんの攻撃を受け流す。そして、ガラ空きになったおっさんの脇に滑り込む。私は柄のそこの部分をおっさんの脇目掛けていれようとする。しかし、おっさんだって鍛えたいる。その攻撃は、避けられた。
「ちっ」
舌打ちをし体勢を立て直した。距離を取る。おっさん眉を寄せて私を見る。再び両方が動こうとした瞬間、団長の声が二人の耳に入り、私の体は停止した。
「ミシェル。これ以上しなくても、評価は出来るだろ?時間の無駄だ」
「あぁ…」
団長はおっさんの隣に行き、そう言った。おっさんははこちらを見ながらそう答えた。私はと言うと、白露を鞘になおして直立不動。そして微笑みを浮かべている。
「シズカ。もう終わりだ」
「ありがとうございました。ミシェルさん」
団長の言葉に、礼をする。そして、あげた顔に笑みを貼り付けていた。その笑みを見て、おっさんは眉を寄せて言った。
「…あの笑顔が、怖いんだが」
「相当怒ってたみたいだからな。どうだ?余裕はなくなっただろ?」
団長の言葉に頷くおっさん。それに満足そうな笑みを見せた団長は、私を呼んで宥めた。仕方なく怒りをおさめて、いつもの表情に戻る。
「さて、次は知識の試験を行いたいんだが」
団長は困ったような視線を向けてくる。団長は、私が異世界から来た事を知っている。知識が足りてないのも分かっている。私も、最近の事ならまだわかるが、昔の事となるとさっぱりだ。私がこの世界に来たのは五年前。つまりは、五年前から過去の事はわからない。
「まぁ…なんとかなるんじゃない?」
「…受けてみるか?」
若干、諦め気味の私に団長は言った。というか、受けても散々な結果だと思うけどね。十分後。机に突っ伏した私。なにこれ。難しいでしょうが。一問目で頭を抱えましたよ。てか、勇者についての問題が多すぎでしょうよ。半分位は勇者の問題でしたよ。
「大丈夫か?」
「死んだ」
団長の心配そうな声にそう返す。三問ぐらいしか合ってる自信がない。問題数は全部で二十。終わった。机に身を投げ出す私の頭を団長は撫でた。
「子供扱いしないで」
と、言いながらも、その仕草が気持ちよくて脱力する。団長は、そんな私を見て小さく微笑んだ。暫くしてからぺしっと団長の手を叩くと、ガタリと立ち上がる。終わった事を悔いても仕方ない。
「団長。私は受かれると思う?」
「ん?シズカの合格は決定してるぞ?」
…は?信じられない団長の言葉に、私は放けてしまう。ちょっと待ってよ。じゃあ、もしかして、今のテストを受ける意味ってないんじゃ…?
「あれ?言ってなかったか?」
「言ってないよ…!今の試験を受ける意味ッ」
私は頭を抱えて再び机に突っ伏した。なんだか、無駄に頭を使って無駄に疲れた。机に突っ伏したまま微動だしない私を見て、オロオロし始めた。…オロオロしすぎじゃないだろうか。
「団長…オロオロしないで」
「…すまん。で、今から隊長達に顔合わせに行きたいんだが」
その言葉に頷いて立つ。無駄なことしたな…本当。そんな事を思いながら、部屋を出ていく団長の後ろについていった。