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黒の竜使い  作者:
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第三話

10/28

第三の視点→静香視点へ変更。

団長は私を連れて国王の元へ向かう。その途中、何度も抵抗を試みたが、どうしても団長からは逃げられなかった。あ、ちなみに、私が戦場で会った顔の整った騎士は騎士団

長様だという事が分かりました。うん。薄々気付いてたけどね。


「ちょ、団長さん。私、礼儀作法とか分かんないですよ」

「構わない」

「いや、私が構うし。それに、王の顔見たら思わず殴っちゃいそう」

「…全力で止めるから大丈夫だ」


私の腕を引く団長は、殴るという物騒な言葉を聞いて顔を少し青ざめたが、速度を緩める事無く進む。私は自前の青いワンピースを見て、こんな姿で会ってもいいのだろ

うかと頭の隅で思う。しかし、私にとってはわりとどうでもいい事なので、その考えはすぐに頭から消える。やがて、大きな部屋にたどりつく。


「基本、俺の真似をしてればいい」

「はーい」


私の返事を聞いた団長は、扉を開ける。重そうな扉は、意外に軽く開いた。部屋の中央にいたのは、国王、王妃、そして、その傍らに綺麗な男女が座ってる。私は嫌そうに顔

を歪めた。団長はそんな私をちらっと見て、床に片膝をついた。真似をしろという意味だと気付いたので、団長と同じ体勢をとる。


「顔を上げよ」


王のその一言に、頭を下げていた私達は顔を上げる。国王の顔が目に入った瞬間、今まで抑えていた私の腕が動く。しかし、その腕を団長が掴んだ。


「ッ!…ありがとう」

「ああ」


小さくお礼を言うと団長は小さく返事を返す。私は自身の中の怒りを抑えながら、右腕を左腕で抑える。その様子に国王達は首を傾げた。


「どうかしたか?」

「いえ。この者は、黒の竜使い。純血の竜の契約者です」

「あぁ。それで…異世界人なんだな?」


こくりと頷いた私は睨むように国王を見る。自身の中で抑えきれない怒りを睨む事でおさめているのである。国王はその視線に怯える事なく、じっと見つめる。睨みあう私と

国王。そこに横から入ってきたのは、王妃と王子だった。


「…ちょっとあなた。止めなさいよ」

「あ、いや、すまない。つい」

「親父、本来の目的を忘れないでくれ」

「いや、すまないすまない」

「(…えー何この人達)」


睨んでいたんだけど、王族達のやり取りを聞いて肩から力を抜いた。隣にいる団長に視線を向ける。団長は戸惑うような視線に苦笑を漏らした。それもそのはず、王の態度が

かなり違うからである。そのギャップから、初対面の人は良く戸惑っているんだそうだ。国王は、王妃から私に視線を戻した。微笑みを浮かべる国王に、私は顔をひきつらせ

た。


「さて、異世界人。名は?」

「…静香。榎本静香」

「シズカか。では本題に入ろう。静香には騎士団に所属してもらいたい」

「嫌です」


即答。とも言っていい速さで答えた。国王もその返事を予想していたのだろうか、余裕の表情を浮かべている。そして、再び私と国王の戦いは始まる。


「そういわずに。入ってみてはどうだろうか」

「嫌です」

「そうだな。騎士団に入れば、生活が豊かになるぞ」

「十分です」

「ではどうだ?結構偉い地位につける!」

「団長。この人は馬鹿なのですか?」


多少イラつきながら聞いた私に、団長は再び苦笑した。国王は愉快そうに笑っている。


「殴りたい殴りたい殴りたい殴りたい」

「こ、国王。遊ぶのは終わりにしませんか」


私の物騒な呟きを耳にした団長は、どもりながら国王に告げる。国王は団長の言葉に何やら満足げに頷いた。国王は私を見て告げる。


「シズカには騎士団に所属してもらう」

「決まっているなら、はじめからそう言ってください」


溜息をついてそう言った。私は、その決定事項に抗う気はない。不思議だという風に視線を向けてきたた団長に肩をすくめた。


「幾ら嫌だといっても決定してるんだからどうあがいたってそれは覆せない。王様の決定だし」

「賢いな」


団長の言葉に、私は笑う。


「では、入団試験をすぐに行います。よろしいですか?」

「あぁ。結果が出たら報告に来るように」


こうして王との対面は終わった。私は部屋を出て団長に声かける。


「入団試験って何するの?」

「体力、知識だ。後は模擬試合をする」

「へぇ…今から?」

「あぁ。何か着替えを用意させようか?」


私の服装を見て団長は尋ねた。私の今の恰好は、運動に適した恰好ではない。団長の言葉に頷いた。着替えた私を連れ、団長は城の中にある稽古場へ向かう。

沢山の騎士達が訓練をする中を団長は進む。騎士団の一番偉い地位に立つ団長が通れば、誰しも立ち止まり挨拶をする。そんな中で、その団長の後ろに見覚えのない制服を着

た、しかも女がついていると誰しもそちらに目が行く。


「誰だあれ?」

「団長が連れてるって事は入団試験の奴だろ」

「女がかぁ?」


コソコソと話す団員達に、小さく顔を歪めた。それに気付いた団長は、周りを一睨みで黙らせる。私に興味のある者はまだチラチラと見ていたが、そういう視線は気

にはならない。堂々とした足取りで、団長の後ろをついて行った。


「すまんな。不愉快な思いをさせた」

「いえ。騎士団に女性がいるのは珍しいの?」

「まぁ練習が男基準で組まれているからな。憧れても、その時点で脱落していく者が多い」


騎士団に入ってくる2割は女性が占める。その内、見習いから騎士にあがる女性は1割以下だ。それ程、騎士団の訓練は厳しく、幾ら鍛えている女性でも難しいのだ。騎士団

で必要なのは体力だけではない。辛い練習に耐えられる精神力も必要なのである。と、団長さんが教えてくれました。


私は団長に連れられて稽古場の外に出る。城を一周できるようになっているようで、何人かの騎士達が訓練をしていた。団長はそれを見ながら私に入団試験の説明をする。


「ここでは体力測定を行う。城の周りをひたすら走るだけの体力の限界を図るテストだ」

「割と単純」

「あぁ。そうだな。誰か前を走らせるか。おいブルー!」


団長は訓練中のブルーさんを呼んだ。あ、ブルーさんは副団長らしいです。すると、ブルーさんが駆け寄ってきて、団長から事情を聞くと一人の団員を呼び出した。


「カイト!」

「はい」


ブルーさんの声に駆け寄ってきた一人の少年。髪は青。瞳はエメラルドの顔の整った少年だ。少年は私を見るとあからさまに顔を顰めた。ブルーさんはそんな少年に言った。


「今からこの人の入団試験を行う。お前はこの人の前を走ってくれ」

「女のですか?」


嫌そうなのを隠さずに言うカイト。そんなカイトに苦笑を漏らすブルーさん。私はそんなカイトの言葉に顔を顰めた。あまり気分のいいものではなかった。カイトは感情を隠

さない。しかし、ブルーさんは苦笑したまま言った。


「頼む。お前が女嫌いなのは知ってるって」

「じゃあ他の奴でもいいじゃないですか」

「お前みたいにそんな余裕はないんだよ」


そう言ってブルーさんは訓練中の集団を見る。誰も、カイトのように今から走れるような者はいない。彼が選ばれたのもこの事が原因だった。カイトは私に視線を戻し、小さく

舌打ちをする。その舌打ちをしっかりと聞いていた私は、笑顔でカイトに言った。


「別にいいですよ。道を教えていただければ一人で走りますし。こちらの方は嫌なようですしね。まぁどうせ、早々にリタイアなさるなら走らない方がマシでしょうし」

「なっ!」


私のあからさまな態度に、カイトは怒りを露わにする。しかし、それ以上に私は心の内でフツフツと怒りの感情が湧いていた。彼のあからさまな態度に、私の我慢も限

界なんだよ。その事を感じ取っている団長とブルーさんは苦笑をしている。


「やってやるよ!俺がお前より先にリタイアするなんてありえない!」

「へぇそうなんですか。それは楽しみですねぇ。よろしくお願いしますね。カイトさん」


片方は睨み、片方は笑顔。そんな私とカイトを見て団長とブルーさんは再び苦笑するのだった。


「限界だと思ったらその時点でギブアップと言え」

「了解しました」


カイトの言葉に頷く。こうして私の入団試験は始まった。自分のペースで進むカイトに、着いていく。思ったよりカイトのペースが早い事に驚いていた。完全に顔には出さな

いけど。時間にして約10分。45週した所で、カイトのペースが少し乱れきた事に私は気付く。


「ハッハッハッ」


呼吸のリズムも少し早まってきた。私はというとほぼ乱れてはいない。一定のリズムを保ち呼吸する私に、カイトの呼吸のリズムはだんだん不規則になってきた。そして60週

目に入ったところで、カイトがふらついた。何とか持ちなおしたカイトだったが、既に限界が近いのだろう。その事に気付いたのでカイトに声をかけた。


「すみません…ギブアップでいいですか」

「はっ?あ、あぁ分かった」


周りから見れば、体力の尽きたように見えるように演技する。だがしかし、まだまだいける程体力は余っている。半分程度消費しただけだ。ここでギブアップしたのはカイト

のメンツを潰さないためだ。どうやらカイトは、新人の中で優秀な部類に入るらしいことが分かったし。ここで自分に負ければ後々面倒な事になると思ったので、自分がまだ

余裕でもギブアップをしたのだった。


「シズカ、水です」

「ありがとう、ございます」


息を整えるフリをしていた私の元に、ブルーさんが水を差し出す。その表情には全てを分かっているのか複雑な表情が浮かんでいた。そっとブルーさんから視線を外すと、次

に目があったのは団長。軽く怒っていると分かったので苦笑を向けておいた。最後に目があったのはカイト。どうやら私がまだまだ余裕な事を見抜いているようで、物凄い形

相で睨まれてる。


「…どうして彼の事を考えた結果なのに本人に睨まれないといけないのでしょうか」

「男には、プライドというものがあるんですよ」


不満そうに言った私の呟きにブルーさんは笑いながらそう返した。私には理解できない事だ。 そう思いながらもらった水をぐいっと飲み干した。

長くなりましたので、何回かに分けます。



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