第二話
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少し直して投稿。
前半静香視点。
後半もう一つの視点。
正午。
いつもは静かなはずの市場はいつもと違い騒がしかった。そして、皆に共通するのはその手の中にある紙がある事。
「おう嬢ちゃん!この紙、みたか?」
「見ましたよ!珍しい方だそうですねぇ」
いつものおじさんが声をかけてきた。私は感心した表情を作りながら答える。私の手には、この前と同じ籠がぶら下げてある。おじさんは気付いていないだろうけど、今、私
は気を抜くと笑顔が引きつってしまいそうなんですよ。なんせ当事者ですからね!そんな私の心情を知らないおじさんは豪快に笑いながら言った。
「そりゃあもう!なんせ、勇者様と同じ故郷の人らしいからなぁ。でも、何故ここにいらっしゃるのか分からないんだよなぁ」
「そうなんですか?噂で、召喚されたとか聞きましたけど」
「でも、ここ最近行われた召喚って五年前らしいしよ」
そう言って、おじさんは不思議そうに首を傾げる。あぁこのおじさんもイケメンな人ですよ?渋いですけど。私はおじさんから聞いたその言葉に、初めて知ったかのような顔
をする。その表情に、おじさんは気付いたように言った。
「そうか。嬢ちゃんは森の奥に住んでたからあまり知らないのか」
あ、これは、私がこの街人出てきた時の設定です。流石に何もわからなかったので今の今まで閉じこもっていた事になってるんですよ。
「はい。最近のことは知ってますけど、さすがに五年前までは…」
「五年前、国王達が国の繁栄のために異世界から人を召喚しようとしたんだがな…失敗したんだ」
その言葉に顔をゆがめた。おじさんはそれもそうだろうと苦笑した。おじいさんの話では、失敗した事を王自ら伝え、頭を下げたのだという。一国の国王が簡単に頭を下げて
いいのかと不満に思ったが、何故だかそれで国王の株がぐんと上がり、今では国民に信頼されまくっている国王なのだとか。
「へぇ…凄い方なんですねぇ」
「そうとも!まぁそんな国王を良く思わねぇ大臣もいるが、手はだせねぇみたいだぜ」
「へぇ…悪い人達も居るんですか。王様がいい人だからこそ、この国はいい人達でいっぱいなんですね」
私は思ってもないことを感心した顔で言っておじさんと別れた。
「今の人物で合ってるんですか?」
「多分」
こっそりと陰からその様子を見ていた団長とブルーは、少女の後をこっそりつけながらこそこそ会話をする。庶民の服を着ていても顔が知れ渡っている二人はすぐばれてしま
う。しかし、誰も声をかけないのは誰もが任務中だと分かるからである。
「あ、裏道に入りましたよ」
「なっ馬鹿か!女一人で裏路地に入っては危ないだろう!」
そういって走った団長とブルーの目に映ったのは驚くべき光景だった。思わず、気配を消して、物陰に隠れてしまうほどに。
「だぁかぁらぁ、か弱い女の子に金をたかるんじゃねぇ馬鹿」
「ど、どこがか弱いんだよ!」
「さぁ?どこだろう、ね!」
少女は男計三人をぼこぼこにしていたのだ。その光景を信じられず、何回も瞬きをしてしまった二人。一通り殴った少女は満足したのか、動けない男達の懐を探る。
「お、おい!何言やってんだよ!」
「え?だってあなた達、私をカツアゲしようとしたんだから、自分のお金とられても文句言えないでしょう?」
「鬼かてめぇは!」
二人は更に頭を抱えた。金をとろうとした人物に逆に金をとられた男達は半泣きで表通りに走って行く。丁度、団長達を見た瞬間、何故かほっとした顔になった男達。そんな
男達に、二人は憐れんだ視線を送った。
「うわぁ…すっくね」
少女は男達の財布の中身を見て呟いた。傍らの石に座って、お札を数えている。団長達は、この少女をもう少し見守る事にした。そんな事を知らない少女は、素のままだ。
「しっかし、面倒な事になってんなぁ…」
『…あの、もう喋ってもいい?』
「どーぞ。はいトマト」
『いただきまーす』
そういって籠の中からミニサイズの竜が出てきた。それに目を見張る二人。そんな二人がいるとは知らない少女はミニサイズの竜とのんびり会話をする。
「ハク…あんたのせいでトマトへの出費が半端ないんだけど」
『ちょっと。僕神聖なる純血の竜なんだからそれくらいいじゃない』
「こういう時だけそれ出すの止めてくれない?」
『何のことだろー』
そんなミニサイズの竜を小突く少女。とても、純血の竜とその竜使いには見えない。竜は、トマトをむしゃむしゃと食べながら何気なく言った。
『で、どうすんのさ。思いっきりバレたよ』
「というか、今までバレテなかったのが不思議」
『まぁこの国って基本的、のんびりした人が多いからね』
「にしても、国王ムカつくわぁ。殴りたいー」
『駄目だよ。やるならばれない様にやらないと』
そこか!?団長とブルーの心の声が一致する。そんな二人の心情は知らず、竜と少女は会話を続ける。
『どうする?』
「うん。まぁばれたらばれたで、その人消すからいい」
『あぁ団長とか?』
「そうそう。あの人、顔がよかったから勿体ないよね」
物騒な会話の中に自分の名が出てきてビックと体を震わせる団長。これ以上、物騒な話をさせない為にブルーは飛び出していこうとした。行こうとしたのだが、
「あ、頭だけ持って帰るとか?」
更なる恐ろしい発言に、ブルーは固まった。しかし、固まったのはブルーだけではない。
「…」
『…』
不自然に出てきたブルーの姿をとらえて一人と一匹の顔が青ざめた。その様子を見た団長とブルーは逆に落ち着いたのか、普通の顔色、普通の足取りで出てきた。
「頭だけ持って帰られるのは勘弁だな」
「あ、あははー嘘に決まってるじゃないですか―」
「そっちは何の生き物なんですか?」
『…ワン』
「ちょっと変わった犬ですよー」
あははーと乾いた笑い声を出す少女に団長は笑顔で言った。
「純血の竜に黒の竜使いだな?一緒に城まで来てもらおう」
「…ハクッ!」
『アイアイサー!』
少女は肩に元気良く返事した竜を乗せ、民家の壁と壁を蹴って屋上に上がる。ほっと息をついた少女の肩に手が置かれ、少女は固まった。恐る恐る振り向くと、そこには超笑
顔の団長が立っていたのだった。
「さぁ、行くぞ」
「うぇ…」
首根っこを掴まれながらズルズルと引き摺られる少女。こうして国民達に伝えられたのは、黒の竜使いを無事に保護したという知らせだった。
「ちょ、団長さん、怖いんですけど」
「うるさい」
「あぁすみません。でも団長さんはうざいですね」
睨みあう二人を見つめながら、泣く泣く新人騎士はその知らせを出したのだった。