一話 もう一つの視点
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話をわけて投稿。
第三の視点です。
「団長!一番隊、全滅いたしました!」
腰に剣をぶら下げた若い男の騎士が、馬の上に乗った男にいう。団長と呼ばれた男は剣をぶら下げてはいるが、若い騎士とは違い、服の質が違う。
「全滅か…仕方ない。俺が行く。三番隊に伝えろ」
「はっ!」
去っていく若い騎士を見ず、団長は眉間に皺を寄せる。顔をしかめた団長は顔をあげて馬を走らせた。
「団長!」
「ブルー。状況を説明しろ」
「はっ。現在、進行を食い止めてはいますが、押されている状況です」
その報告を聞いて、団長は顔を顰めた。考えるそぶりを見せた団長の頭上を、大きな黒い影が横切る。驚いた顔で空を見上げた団長の目に映ったのは、純白の、大きな生き物。
「…は?竜?」
「だ、団長!あ、あれって…」
そばにいたブルーという男は裏返った声で団長に問う。団長達が見たもの。それは立派な羽を広げ、空を舞う純白の竜だった。この国で、竜は珍しくはない。ただ、純白とい
うのが珍しい。竜は子孫を生むにつれ、違う種類の竜と血が混ざると色が変わる。元々の色は白なのだが、今となっては純血の竜はおらず、混血ばかりなのだ。今となっては、
もう純血の竜はいないとされていた。のだが。
「どういう事だ」
「それは俺にも…しかし、まさかまだ純血が存在しているとは思いませんでした」
「俺もだ。…おい。あの竜、今どこに向かった?」
「…戦場の方向ですね」
団長とブルーはお互い顔を見合わせ、馬に飛び乗り、戦場へと急いだ。
戦場へ着いた二人は目を見開いた。純白の竜が地上へ降りており、その横にローブを羽織っている一人の人間が立っていた。
「おい…どういう事だ?」
「俺に聞かないで下さいよ。しかし、竜使いですか」
団長達が駆け寄ろうとした刹那、純白の竜が火を噴いた。それまで攻撃していた敵軍が、一瞬にして半分に減る。何故かは分からないが、この竜は味方か。団長はそう考え、
隣にいたブルーに言った。
「ブルー、三番隊を呼べ。このまま攻めるぞ」
「わかりました」
ブルーは三番隊に伝えるべく、笛のようなものを鳴らした。
「しかし、団長。あの者は何者なのでしょう」
「知らん。だが、これは国王に知らせなければならない。捕まえるぞ」
「相手は竜使いっすよ!」
そう叫んだブルーだが、すでに団長は馬に乗り、竜の元へと駆けていた。ブルーは諦め、後ろからきていた三番隊の指揮に回る。その頃団長は、馬を操りながら、ある事に気
付いていた。
「あれは女、か?」
団長が目にしたのは黒髪を一つに束ねた後姿だった。男で髪をそこまで伸ばす者はあまりいない。団長はその事から女だと判別した。フードは被っておらず、顔を見れるチャ
ンスだと団長はさらに近づく。何者かが近づいてくる気配を感じ取ったのか、ローブを羽織った人が振り向いた。
「ッ!」
団長は思わず、目を見開いた。その人物の瞳が、黒色だったからである。黒目を持つ人物はこの世界ではありえない。黒髪ならば、まだ珍しくてもこの世に存在する。しかし、
黒目を持つ人間はこの世界でただ一人しかいないのだ。
「意味が分からない!」
大昔、この世界を救ったといわれる“勇者”ただ一人が、黒目を持つ。つまり、異世界の者でなければ、どう頑張っても黒目を持つ事は不可能なのである。団長は馬を走らせ
る速度を上げる。
「あ、やば」
『え?うわ、あれって騎士団の服じゃん』
「ハク。逃げるよ」
『アイアイサー』
純白の竜に飛び乗った女はその上に立って団長を見下ろす。既にフードは被ってしまったが、それでも団長は出来るだけ多くの情報を得ようと竜を目で追う。一分もたたない
間に、竜は空高く昇ってしまった。
「ちっ、逃げられた」
「素が出てますよ」
いつの間にか隣に立っていたブルーに注意され、団長は口を閉ざす。既に敵軍は退散しており、三番隊は散らばってまだ潜んでいないか調査中だと団長は報告を受けた。
「…どうかしました?」
団長の異変に気付いたのか、ブルーが話しかける。団長は眉間に眉を寄せながら上空を睨んでいる。そうしてポツリと呟いた。
「異世界人って、最近召喚されたか?」
「は?異世界人?そうっすねぇ…五年くらい前に。失敗しましたけど」
なぜ今そんな事を?そう言ったブルーに、団長は先ほど見た光景を説明した。目を見開くブルー。
「異世界人?!竜使いが?」
「あぁ。目が黒だった」
それを聞いてブルーは頭を抱えた。異世界人。しかも、竜がかかわっている。それも純血の。何て問題だらけの人物なんだ。ブルーはもう既にそこにはいない見ず知らずの者
に文句を言った。
安全を確認した騎士団は城へ帰る。報告のため、団長は国王達に会っていた。
「顔を上げよ」
床に片膝をついて頭を垂れていた団長はその声に顔を上げた。見上げた先には国王。その横には王妃までいた。戦いにて勝利をおさめた事を報告すると安心したような顔をし、
そのキッカケとなった出来事を聞き、目を見開いた。
「純血の竜に異世界人だと?」
「はっ」
「見間違えは…お前だから無いか。その者の特徴は?」
「ローブを羽織っておりましたので情報は少ないですが、おそらく女。それも十代後半だと思われます。
髪の長さは腰のあたりまであり、背は女性の平均より少し低いかと思われます」
特徴を聞いた国王はすぐさま宰相に探し人の届けを出すよう指示する。国王は再び団長へと視線を戻し伝えた。
「ご苦労だった。良く耐えてくれた。すまんな。死人が出なくて何よりだ」
「はっ。勿体ないお言葉」
こうして団長は部屋を退室した。
団長の頭を占めるのは、あの純白の竜と黒の竜使いの事。空高く舞い上がる直前、団長が見たのは黒の竜使いの笑みだった。フードで顔半分は隠れいていたものの、あれは笑
っていた。それは何に対してかは団長にはわからないが、何故か頭にきたのだった。
その翌日から、探し人の紙が配られた。その紙を見て、一人の少女が小さな悲鳴を上げたのだった。