第一話
家で寛いでいる時、突然ハクが争いの匂いがすると言って私を外へ連れ出した。ハクに乗って上空から見下ろしていると、ある方向が騒がしい事に気づいた。どうやらハクの言うとおり、争いは起こってるらしい。私とハクは急いでその場所に向かう。今はイヤリングをしていないのでローブを羽織ってる。フードが捲れない様に片手で抑えながら争いが大きくならない事を願った。
戦場に着くとこちらは押され気味だった。何やってんだ騎士団。そう、心の中で呟きながら空を駆け抜ける。そうして敵陣の前へと降り立った。
『で、来たはイイけどどうする?』
「取り敢えず、ちょっとだけ手を貸そう。この国が攻められたら、私の暮らしが安全じゃなくなる」
『了解』
ハクの横に降りた私は、ハクの言葉にそう返す。するとハクは返事をすぐにして真横で火を噴いた。…これ、暑いんだよなぁ。これする時は、ハクに乗った時か、ハクから十分に離れている時だけだって後で言っとこう。けど、今ので敵は今の半分に減った。これでこの国の騎士達も逆転できるだろうと考えていたその時、風が吹いてバサッとフードが取れた。まぁ誰もいないからいいんですけどね。てか、風強いな。
『フード、取れてるけど』
「誰もいないし、別にいいよ」
ハクの言葉にそう返す。けど、その油断がいけなかった。誰かが近づいてくる気配を感じ、敵かと警戒心を強めて振り返った。そこには馬に乗る一人の騎士。この国の騎士だ。ここから見える限り、整った顔をしている。私を見て目が見開かれる。何かを言った騎士の顔は、歪む。その人が見ているのは私の瞳。そして今の私はフードを被っていない。
「あ、やば」
『え?うわ、あれって騎士団の服じゃん』
私が呟くと、その声に反応したハクが後ろを向く。そして騎士を見つけて私を見た。私に、どうするか判断をゆだねてるみたいだ。勿論、私の言葉は決まってる。
「ハク。逃げるよ」
『アイアイサー』
私の言葉に、気の抜ける返事をするハク。いつだってハクはこうだ。そんなハクに苦笑しながら、ハクの背中にさっと飛び乗り、ハクの背中に立つ。素早く取れていたフードを被り直して、私を追いかけてきた騎士を見下ろす。どんどんと小さくなっていく騎士の必死な表情を見て思わず笑ってしまった。だって、ずっと目でおってくるのに、その表情はなんだか悔しそう。よくわからない騎士の表情がなんだか面白かった。
『見られちゃったねぇ』
ハクのんきにそう言った。そんなハクの上に座って私ものんきに言う。
「まぁ大事にはならないでしょ。団長じゃない限り、情報は正確には伝わらない」
『ならいいけど。僕としては、トマトが食べられるならなんだっていいけどね』
「おい」
無責任な事を言うハクをペシっと叩いておく。やがて町外れに来て、ハクから降りるとハクが消えた。正確には、小さくなって透明になったんだけどね。その姿でハクは先に帰る。私も家へと歩き始めた。今日のごはんは何かと考えながら、普段通りに。多少の寄り道をしながら家に帰る。もたもたと遅く帰った私に、ハクは遅いと怒った。
『もー!何してるのさ!』
竜のくせにほっぺをふくらせる姿は可愛い。というか、人形サイズなので黙ってれば人形に見える。うん。そのウロコとかがなければ完璧なんだけどな。そんなことを思いながら、荷物をテーブルにおろしてハクの言葉に答える。
「いや、そこらへんをフラフラとしてた」
『そんな事より、僕、お腹空いているんだよ!』
しらんがな。胸を張り、腰に手を当てて言う心の中でつっこんだ。そんな私の腕の中にトマトがあると知ったハクが、すかさず一つ取っていった。おい。今日の晩御飯はミネストローネなんだぞ。トマトなかったらただの野菜スープですよ。それでもいいんですか。そう言いながら、台所に立った。
『ミネストローネ?あれ?トマトスープ?』
「そうそう」
そっか。こっちにはミネストローネっていう料理はないんだっけ。あっちと食材は同じなのに、使い方が全く違うから不思議だよなぁ。そう思いながら、ハクを手伝わせてミネストローネを作り、鍋いっぱい作ったミネストローネがなくなって食器を洗い、満腹になったハクが私のベッドに入って寝ているのを見て私もベッドに潜って眠る。いつもと同じ、何も変わらない。明日も、何も変わらないだろう。
そう、思っていたんだ。この時は。そう思う程、この時まではいつも通りだった。だからこの時の私は知らない。翌日に配られる探し日とのビラに、私とほぼ一致する特徴が書かれていた事を。それを見て小さく悲鳴をあげた事を。そして、この後、油断して重大なミスを犯してしまうことを。それがきっかけで、大変な事になってしまう事を。
10/28
第三の視点→静香視点。話を変更。