二章 一話 〜違和感〜
気付くと自分の部屋に居た。
ベッドの上で、制服のまま横になっていた。
机、本棚、クローゼット。
ちゃんと鞄もある。
間違いなく、自分の部屋だった。
何だったんだろう・・・?
さっきまでの“何か”。不思議な感覚がまだ残っている。
不思議、と、いうか、何だろう・・・?嫌な・・・、それでも何故か体が軽い。
頭も冴えて、心なしか何時もより周りの風景がクリアに見える。
本当に、何だったろう・・・?
ベッドから降りて服を着替える。
時計を見れば、時計の針は七時を回って半を過ぎている。
いつ帰ってきたのだろう?と思う。
全然、家に帰ってきた記憶が無い。
記憶と言えば、放課後桜と家に帰ろうとして―――
そこまで思い出して、撫子は鞄に手を伸ばした。
鞄の中を探って、携帯電話を取り出す。
勿論、掛ける相手は放課後、撫子が“あの場所”に行くに至った原因であろう人。
撫子は携帯電話のフォルダから『桜』の名前を探す。
探して、表示された電話番号に電話を掛けた。
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル・・・
しばらくコール音が続く。
耳に電話を当てつつ、左手には握り拳を作る。
怒ってる訳じゃなかった。かと言って、大きな声を張り上げない自信も無かった。
ただ、確かなのは、“桜の声が聞きたい”という事。
聞いて、安心したかったのかもしれない。
それに、確かめたくもあった。
さっきまで自分が聞いていたあの話が、本当の事なのか。
今現在、こうして電話をしていても実感が沸かない。全く。
夢だったのかも、とも思う。
思いたい。
だからこそ、桜の声が、話が聞きたかった。
だから、撫子は待った。
桜が電話に出てくれるのを。
だが、
トゥルルルル トゥル・・・ 只今電話に出ることが出来ません ピー という発信音の後にメッセージを
切った。
リダイアルで、もう一度掛けてみるが結果は変わらなかった。
居留守を使っているのか、それとも電話に出れない状況にあるのか。
どちらにせよ、今撫子がそれを確かめられることも訳もない。
明日だ。
撫子は携帯電話を閉じた。
桜に何かが起こっていない限り、明日桜は学校に顔を出すはずだ。
撫子はそのままベッドに戻った。
明日。
明日聞こう。
ベッドに横になって、撫子はそう繰り返した。
徐々に眠気が迫ってきたとき、ふと舌が何か鋭いものに当たった気がしたが、徐々に視界が霞み意識は夢の中に―――
違和感を感じたのは朝目覚めたときだ。
違和感、と言うほどでなにしろ、撫子は異変のようなモノを感じた。
“何”が?と問われるとはっきりとは答えられないが、何かが違った。
その違いに戸惑いながらも、撫子は玄関に向かった。
いつもなら桜が外で待っていてくれているはず。
玄関に手を掛けて、少し息を吸って、開けた。
「・・・居ない」
居なかった。
外にでて左右を確認したが、どこにも桜の姿を見つけることができなかった。
大丈夫。
撫子は学校に足を向けた。
学校に行けば、きっと桜に会える。
いつもの登校風景を一人で歩きながら、撫子は学校へ向かった。
そして撫子が桜の退学を聞いたのは、朝のホームルームでの事だった。