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一章 三話 〜部屋の中から〜

部屋の中は不思議な感じがした。

何が、と言われれば返答に困るが、何か、不思議な感じがしていた。

部屋の中にはタンスや本棚があり、その真ん中に社長室にあるような机があった。

そこに、“誰か”は居た。

例によって、ソレが何かは解らない。目から入る情報が、脳まで届いてない感じ。

“見る”分には何の支障もないが、“視よう”とすると、それは情報として脳に伝わらなかった。

「よく来てくれました」

と、何かは言った。

「そっちが呼び出したんじゃない」

強い口調で撫子はそう言った。

不思議と恐怖はなくなっていた。

「そうでしたね。その通りです」

声は少しほくそえむような感じだ。

「貴女をお呼びしたのは他でもない」

声は言った。

「私の後継者を決めたいのです」と。

「後継者?」

何を言っているのか?

撫子は眉間に皺を寄せた。が、声は淡々と続ける。

「私は世で言う所の吸血鬼、ヴァンパイアです。人の生き血を啜り、何百年も生きる、あの。ですが吸血鬼と言えど、不死身ではないのです。ある程度のダメージを受ければ死ぬこともあるし、下手をすれば病気でさえも私達の脅威と成り得るのです」

語る声に、撫子は何も言わなかった。

何も言わず、ただ聞く。

何かを言っても、どうも意味を成すことは無いだろう。寧ろ反論をすることで殺されるかもしれない。

だから撫子は黙っていた。

これ幸い、と思っているはずもないだろうが、声は続けて言う。

「お友達に聞いたかもしれませんが、私に血を吸われた人間は吸血鬼の力の一端を授かることになります。それは与えた吸血鬼、与えられた人間によって様々ですが、必ず与えられるものです。しかしそんな力の一端では、私の後継者とは成り得ない。ですから、私は考えました。私ももう老い先短い命。後に良き後継者を残すにはどうしたらよいか、と。そこで思いついたのが、この世に多くの“吸血鬼の使徒”を生み出し、その者達で一番優秀な者に私の後継者として迎えよう、と。ですから貴女にもその一員として――――――」


「ッざっけんじゃないわよッ!!」


長々とした声の話を、撫子の怒声が断ち切った。

「・・・何ですか?」

「何ですか、じゃ無いわよ!私達には何の権利もないの!?何でアンタの一存で、納得もしてないことに協力しなくちゃいけないのよ!?アンタの所為で、桜まで巻き込まれて・・・!!」

撫子は目に涙を浮かべたが、それをスグに拭った。

「アンタなんか・・・!アンタなんか・・・ッ!」

もはや声にならず、それを何回も繰り返した。

「はい・・・。それは本当に申し訳ないと思っています。しかし、貴女やお友達が“吸血鬼の使徒”に択ばれたのも、又仕方の無いことなのです」

「何が・・・!!??」

再び撫子は声を張り上げた。

が、声には届いているのか届いてないのか、声は淡々と続けて言う。

「では聞きますが、貴女は何を日頃食べていますか?牛、豚、鶏、魚。これらを貴女方人間は捕らえて、もしくは飼った上で殺して食すのでしょう?それは違うのですか?彼等に許可を取った上なのですか?会話も間々成らない彼等に、許可を取り、その上で殺して食しているのですか?」

「それは・・・、仕方がないじゃない・・・!そうしないと生きていけないもの・・・!!」

「そうでしょう?その通りです。貴女方は間違っていない」

言って、声は大仰に両手を掲げた。ような雰囲気をかもし出した。

「いいですか?貴女方は彼等よりも強いのです。そして彼等は弱い。強いものが弱いものに許可を取る必要はありません。現に貴女方がそうしているように、それが正しいのです。それを貴女方は人間が人間を殺すのは駄目だ、とか、弱いものを強いものが虐げては駄目だ、などと理解の出来ない事を言っている。おかしな話ではありませんか?」

「・・・・・!」

撫子は何か言おうと口を開いた。が、その口は何も言葉を発しないまま閉ざされた。

言い返す言葉が見当たらなかった。

勿論、全てが全て正しいと思ったわけじゃない。

が、言い返す言葉が無かった。心のどこかで納得してしまった部分が、確かに少しはあったのだろう。

「いいですか?」

声は言った。

「もうあなた方には択ぶ道はありません。あなた方の中から必ず私の後継者となる方を決めていただきます。断ればどうなるか・・・、解りますね?」

殺す、と言いたいのだろう。

「・・・どうしたらいいの?」

「単純な事です。この辺り一辺に“吸血鬼の使徒”を数十人程を配置してあります。彼等と殺り合って貰いたいのです。それを拒むことは出来ません。すでに貴女以外の全員には説明済みです。全員快く受け入れてくださいました。中には礼まで言ってくれる人も居ましたよ」

「・・・なんで、私が最後なの?」

「何故・・・?たまたまです。最初があれば最後もある。そうでしょう?特別な意味はありませんよ」

「そう・・・」

「さて、もう用はありません。恐らく次目覚めたとき、貴女は自分の本来の居場所にいるでしょう。しかし、これは夢ではありません。それを十分に理解した上で行動してください」

声は言った。

瞬間、撫子の目がかすむ。

「ん・・・?何・・・」

目元を押さえながら、撫子は倒れないように足に力を入れた。

そして、ふと、頭によぎった存在。

「桜・・・、そうよ!桜は!?桜はどうなって―――」

そこまで叫んで、撫子は床に倒れこんだ。

「頑張ってください」

最後に、遠くでそう聞こえた。

そして次の瞬間には、撫子の意識は暗転―――――

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