一章 二話 〜部屋の外から〜
短いです
あの部屋を出、“ソイツ”の後ろを歩き出して間も無く、ソイツはふと足を止めた。
そこには扉があって、おそらく部屋に通じている。
「ここだよ」
と、ソイツは撫子の方を向いて言った。
何がおかしいのか、さっきからずっとクスクス笑ったままだ。
「ここに・・・」
何があるのだろう・・・。
撫子は不安と緊張に駆られながら、
それでも何か、
表現の仕様の無い感覚に苛まれていた。
すると不意に、
ガチャ・・・
と扉が開いた。
「どうぞ」
部屋の中から声がする。
不思議なことに、その声を聞いても撫子には男か女か判断しかねた。
中性的な、と言うわけじゃあない。ちゃんとした、はっきりした声。
それなのに、耳から脳に渡るまでに“そういう判断”が出来なくなる。
解りにくいが、そんな感じ。
さらに言えば、
扉が開いて部屋の中が伺えるようになった。
それでも、撫子には部屋の中が確認できなかった。
いや、見えるのだ。ちゃんと。
中の様子がはっきりと伺える。
しかしそれが、“見える”という状態で止まり、“認識する”まで持っていけない。
だから撫子が部屋から視線を外したとき、撫子は部屋の中の様子を全く覚えていない。
何故なら、最初から認識できてないから。
初めて味わう感覚に混乱しつつも、撫子は“ソイツ”に向けて、どうすればいいのかと視線を向けようとした。
が、
「あ、あれ・・・?」
さっきまで隣に居た“ソイツ”の姿を確認できなかった。
これは認識の問題云々ではなく、事実そこに“ソイツ”は居ない。
「ローゼには席をはずしてもらいました。どうぞ、お入りください」
再び中から声がする。
ローゼ、とはさっき居たやつのことだろう。
「お入りください」と声は言った。
それならば、と、撫子は一歩を踏み出す。
緊張と不安は感じた。が、
不思議と、恐怖だけは感じることは無かった――――――
三話目です。
前書きの通り短くなって降りますが、楽しんでいただければ幸いです。