一章 一話 〜部屋と撫子〜
「ん・・・、んん・・・?」
撫子は目を開けた。
頭がぼんやりする。
体を起して、頭に手を当てる。
何で眠っていたのだろう?
思い出せずに、撫子は頭を抱えた。
少し記憶が混乱している。
頭がガンガンして、ボヤーっとしている。
「え・・・、っと・・・」
頭を抱え、頭を振って・・・、
「!」
思い出した。
学校からの帰り道。
桜と帰った帰り道。
突然の告白と、意識の暗転。
確か桜が噂話をはじめ、そして自らを”吸血鬼の使徒”だと告白した。
そして撫子の首元に歯を当てて――――
「血を・・・?」
撫子はふと、手を首元に持っていった。
つつ・・・、と首筋を撫でていき、
「痛・・・ッ!」
痛みに顔を歪めた。
・・・間違いじゃなかった。
あれは夢でも何でもない、確かな記憶。
信じたくは、無かったけれども。
それより、と、撫子は周りを見回す。
ここはどこだろう?と。
とりあえず、今撫子が眠っていたのはベッドの上だと言うことが解った。
キングベッド程もある大きなベッドに、撫子一人が眠っていたらしい。
ほかに何か、と周りを見る。
タンス、机。在る物はそれだけで、どうやらここはどこかの部屋の中なのだと解る。
窓はなく、証明の小さい明かりだけで部屋は照らされている。
撫子はベッドから降りると、今度は体を見た。
服に乱れた様子もなく、何をされたわけでもなかった。
「桜は・・・」
と、改めて部屋を見たが、やはり桜の姿は無い。
「・・・そうだ!携帯!」
撫子はポケットに入れておいた携帯電話の存在を思い出した。
ポケットに手を当てると、携帯電話に触れた。
「良かった・・・、在った・・・」
撫子はそれを取り出すと、開いてディスプレイを確認した。が、
「あ、あれ・・・?」
反応はなく、ディスプレイは黒いまま。
どのボタンをカチカチ押しても、ピクリとも反応を示さなかった。
「電話なんて使えないよ」
――――突然の声は後ろから。
「!!??」
撫子は突然の声に戸惑いながらも後ろを振り返る。
そこには、さっきまでは居なかった“何か”が一人。
ソイツはマントで体を覆いつくし、顔の半分をフードで隠していた。
声からも、男か女かは判別がつかない。
「・・・・・・」
撫子は壁に張り付くように身構えて、ソイツを睨み付ける。
が、ソイツは何をするでもなく、クスクスと声を押し殺すように笑っている。
しかし、それだけのソイツの姿に、撫子は体の震えを覚えた。
何か、得体の知れない何かが、恐怖を感じさせている。
「ふふふ、そんなに怖がらないでよ。別に何をしようってワケじゃないんだから」
口元に手をやって、ソイツは言った。
クスクスクスクス。部屋の中にソイツの静かな笑いだけが残る。
「・・・ここはどこ・・・?・・・あなたは誰?何でここに私を連れてきたの?」
撫子は体の震えを堪えながら、しっかりとソイツを睨み付けて言った。
しかしソイツは何ら変化を見せることも無く、
「そんなまとめて質問されてもね。とりあえず、最初の質問の答えは今知る必要は無いよ」
と言った。
「何故・・・?」
「それもじきに解る。それから、僕が誰かってのもすぐに解る。連れてきた理由も、ね」
そう言うとソイツはクスクス笑って手招きをした。
「答えをくれる所に案内してあげるよ。大丈夫、安心しなよ。さっき言ったように、君に危害を加えることはしない」
「加えること“は”、ね・・・」
「そうさ」
クスクス笑っているソイツに、それでも撫子は何をする事も出来ない。
かと言ってここで燻っているわけにも行かず、
「・・・解ったわ」
撫子は頷いた。
「じゃあ、行こう」
撫子は部屋を出るソイツの後ろについて部屋を出た。
これから先どうなるかを考えたとき、
勿論、良い予感なんてしなかった。
二話目です。
楽しんでいただければ幸い