間章
翌朝玻璃は随分と早起きをした。
初めてアラストルの寝顔を見たのだ。
「…シルバとおんなじ顔なのに、シルバじゃない……」
シルバはもっと優しく微笑んでいた。だけどもアラストルは自信に満ち溢れた笑い方をする。
だけども泣くときは二人とも同じように静かに泣く。
玻璃は不思議でならなかった。
同じ人がわざと別の行動をとっているのではないかとさえ思っていた。
「アラストルがシルバだったらいいのに…」
そうしたらきっと殺さなくて済む。
こんなに良くしてくれるアラストルを殺すなんてと玻璃は思う。
目を閉じれば今もシルバの微笑が浮かぶ。
「きっとアラストルもそう思ってる…」
あの時私が死んでいれば良かったって……。
あの日の出来事を思い出し、玻璃は涙を流す。
その一滴がアラストルのほほに落ちる。
「…おい、お前、人の上でなに泣いてるんだぁ?」
寝起きから不機嫌そうなアラストルが玻璃の目元から指で涙を拭う。
「ほら、とっとと泣き止め。んな顔されたら迷惑だ」
「うるさい、黙れこの三十路」
「三十路言うな、気にしてるんだ!」
服の袖でごしごしと涙を拭いながら玻璃は「三十路!」とアラストルに叫ぶ。
「なんでいっつも三十路って言うんだよ…」
「事実」
「そらそうだが…」
「それにいっつも私のことガキっていう。オジサンって呼ばないだけマシ」
「ぐっ…てめぇ…一番気にしてるところをずけずけと……」
アラストルは俯きながらわなわなと震えている。
「オジサンって呼んで欲しかった?」
「可愛くねぇガキだなぁ」
「私に可愛さを求めても無駄よ」
ツンと玻璃が言う。
アラストルは大きなため息を吐いた。