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間章


 アラストルが出かけた後、玻璃は一人残された部屋の中で、アラストルの万年筆で新聞に挟まっていた広告の裏に絵を描いていた。

 それは記憶の中にある懐かしい顔。シルバの姿だった。


「アラストル、遅いな…」


 写真ほどの精度でそれを完成させたころ、既に玻璃は絵を描くことに飽きていた。

 再び長椅子に横たわり丸くなって目を閉じる。

 このまま寝てしまおう、そう思ったときだった。

 戸を叩く音がした。


「アラストル?」


 帰ってきたのだと思い、確認もせずに玻璃はドアを開けた。


「よぅ」


 そこに居たのはアラストルでは無く、若い女だった。

 栗毛の長髪を結い、いかにも活発に動きやすそうな衣装を身にまとった彼女を見て、玻璃は目を見開いた。

「瑠璃…どうしここに?」

「愛の力、かな?なんとなくお前が居る気がしてさ」

 瑠璃と呼ばれた彼女はそうは言うものの、玻璃は彼女の視線の先を見て、それは嘘だと思った。

「何をしに来たの?」

「迎えに来た。一緒に帰ろう玻璃」

「ダメ、ちゃんと待ってるって約束したから」

「……お前はあいつを殺さなきゃいけないんだ。分かってるだろう?」

 どこか寂しそうに彼女は言う。

「分かってる…でも、期限はまだあるから」

 遠い記憶を見るように、玻璃の瞳は瑠璃を映してはいない。

「馬鹿! とっととあいつを殺して帰ればいいだけの話だろ?」

 乱暴に玻璃の両肩を掴む。

「……わかってる」

 玻璃は視線を逸らす。

「玻璃…一人でできないなら私が手伝ってやる。ほんの一撃で済むだろ? 一瞬で、楽に逝かせてやればいい」

「……うん」

 玻璃はまだ納得がいかないという風に俯く。

「玻璃」

「…いい、一人でやれる。だから、今日は帰って。マスターに悪いようにはしないから」

 玻璃はそれだけ言って瑠璃を玄関から押し出す。

「玻璃!」

「ごめん」

 瑠璃の叫びも虚しく、ドアは音を立てて閉まる。

 玻璃はすぐに鍵を掛けて、長椅子に蹲る。

 瑠璃が何度かドアを叩くが、両耳を塞いで聞こえない不利をした。


「ごめんね。瑠璃…」


―殺せない―


 頭の中で叫ぶ自分。


―殺さなきゃ―


 頭の中で響く声。


 二つの声に叫ばれて、玻璃はどうしていいのか分からなくなった。


「シルバ…どうしたらいい?」

 広告の裏の絵に話しかけるが、答えは返ってこない。


 部屋の中はただ、静寂だけが潜んでいた。




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