間章
「じゃあ、行ってくる」
「お早くお戻りください。玻璃様」
ジャスパーに見送られ、玻璃はアジトを出た。
手には紫の薔薇の花束。
向かう先は墓地。
「リリアンはナルチーゾかな?」
風に問いかけても答えなど無い。
「いや、ムゲットさ」
変わりに風の名を持つ姉が答えた。
「本当?」
「ああ、シルバと一緒に埋葬されてる」
「窮屈かな?」
「だろ。蹲って土の中だ」
瑠璃は欠伸をしながら答えた。
「リリアンは白い花が好きなんだって」
「へぇ、なら白い花も買ってくるか?」
「ううん。それはアラストルが持ってくるよ。私があげてもきっと喜ばない」
「そうか?」
「多分」
墓地に荒らされた形跡は無い。この国の墓守は世界一優秀だと玻璃は思った。
「誰か来たのかな?」
火色の花が墓の上に乗せられている。
「マスターだろ? 多分」
「マスターが?」
「ああ、毎月来てるぜ? 優秀な部下を亡くしたとか言って。結局あいつはお気に入りだったんだろ?」
それを聞いて玻璃は嬉しいような気に入らないような微妙な気持ちになった。
「マスターは家族主義だからな」
「家庭への憧れが強すぎるって朔夜が言ってた」
「まぁ、マスターも私たちと同じだから仕方ない」
瑠璃は笑う。
「これもまた運命、かな?」
「なんだそりゃ」
「シルバが言ってた。マスターは家族が居ない人間ばかりを集めるって。そうやって大きな家族を作るんだって。それでね、みんなが出会うのは運命って言ってた」
「ほんっと、そういうの好きだよな。あいつ」
「うん」
呆れるくらい優しい人。
まだ、覚えてる。
「忘れないよ。シルバ」
まだちゃんと頭を撫でられた感触も、温もりも、困ったような笑顔も、お腹を抱えて笑う姿も、任務の時の鋭い視線や殺気だってちゃんと覚えている。
玻璃は目を閉じてシルバの姿を浮かべる。
「思っていたより似てないかも」
「ん?」
「アラストルとシルバ。シルバのほうが上品だもの」
「言えてる。あの男、声がでかくて潜入とかそういうの出来ないだろうしな」
玻璃はもう一度墓を見て外へ歩み始める。
「おい、もういいのか?」
「うん。もういいよ」
ずっしり重かった何かが外れて、急に身体が軽くなったようなそんな気がした。