第十六章
アラストルは爆音の後、音を聞いた。それはとても小さな音だった。
その小さな音は影を伴っていた。その音に気付いたのはアラストルと瑠璃だけだった。
「玻璃!」
「伏せろ!」
瑠璃とアラストルは同時に手を伸ばした。
そして、アラストルは玻璃を突き飛ばした。
刹那、アラストルの身体を影が通り抜けた。彼は背中から鳩尾にかけてただ、衝撃のみを感じた。
「アラストル!」
玻璃が叫んだ。その声と同時にまたあの小さな音がなった。それはリヴォルタがよく使う、魔動長銃の音だった。
弾丸は魔力そのもの。あらゆる盾も通り抜けるため特殊繊維も役には立たない。
リヴォルタのみが使うそれに未だ対策を立てることは不可能だった。
再びアラストルの身体を影が通り抜ける。アラストルは重力に引きずられるようにして倒れた。
「アラストル!」
玻璃が駆けつけようとするが、アラストルは手の動きだけでそれを留めようとする。
「玻璃、花屋の屋根の上だ。リヴォルタの奴が居る」
「え?」
玻璃が振り向くと同時に、瑠璃とセシリオも振り向く。
屋根の上に、黒い衣服を身に纏った男が居た。
「あいつが……」
「よく気付きましたね。アラストル・マングスタ。誉めてあげましょう。玻璃、あの男の首を取れれば今回のことは見逃して上げますよ」
「え?」
セシリオの言葉に驚いたのは瑠璃の方だった。
「あの男は、過去に僕から部下を奪った男ですからね」
彼の言葉に玻璃の目に憎しみのようなものが宿った。
「あいつが……あいつのせいで……」
玻璃はナイフを構え屋根の方へと駆け出した。
「待て!」
アラストルは必死に玻璃の方に手を伸ばす。
だが、玻璃は止まらなかった。
目の前に赤が散る。
そして、何か塊が飛んだ。
よく、目を凝らしてみると、飛んだのは男の頭だった。




