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間章
時が止まった気がした。
それは手のひらに落ちた雪の一片が融けていくのに似ている気がする。
それほどゆっくりと。
目の前が赤く染まる。
大好きなあの人が、「ヒト」から「モノ」に変わった瞬間、大気は深紅の花びらに包まれた。
ゆっくり流れる時間はとても美しく、まるで舞台の一部のようだった。
けれど、それは酷く残酷だった。
そう、時間は玻璃からシルバを奪った。
大好きだったあの手の温もりはもう無い。あの微笑みも、優しい声も全てその瞬間、紅と一緒に消えてしまったのだ。
「アラストル!」
玻璃は必死に手を伸ばした。だけども。
後一歩、もう少し。あと五センチ玻璃の手が長ければ届いたであろうその僅かな距離で彼の手はすり抜けてしまった。
玻璃の目にはしっかりと見えた。
アラストルの身体を影が通り抜けるのを。
そして、もう一つ、影が彼の傍に近づいてくるのが見えた。
「アラストル! 避けて!」
「大丈夫だ……」
アラストルは玻璃に向かって酷く優しく笑いかけた。
それはかつてのシルバと見事に重なった。