第十四章
「見つけた」
大聖堂に入ると、前に見た聖女のような女が居た。
「朔夜」
「玻璃ちゃん、やっと会えた」
嬉しそうに微笑む彼女を敵と思うことは難しかった。
「どうして戻ってきてくれなかったの?」
「もう、マスターのところには戻らない」
「え?」
玻璃の言葉に、女は驚いたような表情をする。
「マスターはアラストルを殺せって言う。でも、アラストルは誰も殺さなくていいって言ってくれる。だから、マスターの場所には戻らない」
玻璃は真剣な眼差しで言う。
「…そう、なら、仕方ないわ。玻璃ちゃんが選んだことですもの」
女は静かに言う。
「でもね、その人、本当に信用できるの? 玻璃ちゃんを守れる実力があるのか……私が確かめさせてもらうわ!」
そう言って、女は着ていた服を脱ぎ捨てる。
そして、その服の下からはサーカスの猛獣使いのような衣装が現れ、彼女の手には鞭が握られている。
「ここは、神聖なる場所。血で汚すわけにはいかないわ。表に出なさい。私が相手して差し上げましょう。アラストル・マングスタ!」
「やはり俺を知っていたか」
「気付いたのは昨日の夜。セシリオの部屋の資料をたまたま見てしまったとき。できれば貴方とは戦いたくなかったわ」
でもね、私には私の義務があるの。と彼女は言う。
「義務だかなんだかしらねぇが、身に覚えの無いことで命を狙われるのは我慢できねぇなぁ」
アラストルは意地悪く笑う。
彼もまた、クレッシェンテ人なのだ。
売られた喧嘩は買うし、身内意外などに情けは掛けない。
「アラストル、外に出ちゃだめ」
「ん?」
「朔夜は強い。だけどここじゃ戦えない。朔夜を何とかできればマスターに勝てる」
玻璃が静かに言う。
「朔夜。悪いけど、遠慮は出来ないわ」
「ええ、私も、ディアーナ幹部として…引かせては貰えないわ」
朔夜の瞳はどこか哀しさを含んでいる。
納得できないのだ。この戦いを。
「でも、私の負けかしら…玻璃ちゃんも賢くなったわ」
それは賢いんじゃなくて卑怯だろとアラストルは言いたかったが、その卑怯のお陰で戦わずに済みそうなので何も言わないことにした。
「神の家で戦うなど、私には出来ないわ」
朔夜がそう言った瞬間だった。
朔夜が見上げた先の、ステンドグラスの入った窓と壁が爆破されたように吹き飛んだ。
「な、な、な、なんてことを!」
朔夜は慌て、窓のあった方を見る。
「悪りぃ、ちょっと邪魔だったからさ」
いけしゃあしゃあと言う瑠璃に、朔夜は倒れた。
「瑠璃、朔夜気絶したよ?」
「何?」
マスターに殺される! などと瑠璃が慌てだす。
その隙に、玻璃は壊れた壁の破片を拾って瑠璃の後ろに投げつける。
「…玻璃、いい度胸ですね」
それはいつか聞いた男の声だった。