間章
「それで?玻璃に接触したと」
「はい…」
薄暗い部屋で、セシリオ・アゲロが瑠璃に氷のように冷たく鋭い視線を向ける。
「余計なことを…玻璃には既に釘を刺しています」
「でも! 玻璃にはあいつは殺せない!」
「なぜそう言い切れるのです?」
セシリオは不機嫌そうに瑠璃を見る。
「玻璃は…雨を待つと…そう言っていた」
「雨? 何故です?」
何か引っかかると言うように彼は眉をひそめる。
「ああ、あの日の……やはり、まだ囚われているのですかね?」
「ああ、玻璃は…シルバに囚われている。もう、夢と現実の区別がつかないところに居るんだ…」
「そんな…玻璃ちゃんに限って…」
「朔夜? 入ってきてはいけないと言ったはずです」
突然声がしたほうを向くと、朔夜が今にも泣きそうな表情で立っていた。
「部屋の外まで声が漏れていました。瑠璃ちゃん…嘘だと言って! 玻璃ちゃんが…そんな……」
「アラストルって男を殺せずにいる。普段の玻璃ならありえない」
「アラストル?」
朔夜ははっとしたように目を見開く。
「……まさか…大聖堂にいた銀髪の……」
「朔夜? 知っているのですか?」
「…まさか……彼は玻璃ちゃんを知らないって言っていたわ」
朔夜は首を横に振り、必死に否定する。
「朔夜、知らないというのは簡単だ。知っているふりよりは知らないふりのほうがずっと簡単だからな」
瑠璃が考え込む。
「朔夜は何か訊かれたか?」
「いいえ」
「とにかく…あと四日待っても玻璃が戻ってこないようでしたら、僕が直々に手を下す必要がありそうですね」
セシリオは妖しい笑みを浮かべる。
「セシリオ…お願い、玻璃ちゃんだけは……玻璃ちゃんだけは!」
「分かっていますよ、僕の可愛い奥さん。でも、万が一玻璃が邪魔をするようなことがあれば……玻璃も一緒に死んでもらわなくてはいけなくなりそうですね…」
セシリオの笑みに二人は凍りつく。
「ま、待って! 玻璃が失敗したなら私が挽回する。だからそれまで待って!!」
「瑠璃…まぁ、貴女は玻璃とペアですからね。まぁ、玻璃の期限の後三日猶予を差し上げましょう。ギリギリまでは玻璃に手を貸すことは禁じます。玻璃の忠誠心を試す必要もある。失敗したならそれ相応の対応をしなくてはいけませんねぇ…僕も、可愛い玻璃をあまり苛めたくは無いのですが、他の部下たちに示しがつきませんから…」
「…わかった」
納得のいかないように、それでも従わなければならないと瑠璃は頷く。
「玻璃も…ドーリーの名は返上しなくてはならないようですね。あなた方もそうならないように気をつけなさい。ヴェント、レオーネ」
「はい」
「分かってるわ」
二人の返事に彼は納得したように頷く。
「それでは解散です」
彼が言った瞬間、部屋から三つの影が消えた。