間章
アラストルと分かれた後、朔夜はなんとなくアラストルが何か嘘をついている気がした。
だけども、誰にでも隠し事のひとつやふたつはあるだろうと思い追求しないことにした。
「朔夜、なにかありましたか?」
「いいえ、何も。今日もいつも通り神父様のお話を聞いてきました」
「何か実りは?」
「セシリオ、それを求めるために行っているわけじゃないのよ? 貴方には理解できないかしら?」
朔夜は困ったようにセシリオという男を見る。
「僕の可愛い奥さんが満足するならなんでもかまいませんよ。僕は。尤も、僕には貴女と違い信仰心なんて持っていませんが」
「酷い人」
「今更でしょう?」
彼が言うと朔夜は「ええ」と短く答える。
「玻璃ちゃんの情報が入ってこないわ。貴方、なにかしているのかしら?」
「いいえ、僕は何も」
朔夜がまっすぐ見つめても、彼は動揺もせずに答える。
「僕の可愛い奥さん、そんなに悲しそうな表情をしないでください」
表情の変化があったのは朔夜のほうだった。
そんな朔夜を彼は優しく抱きしめる。
「大丈夫です。きっと玻璃はこちらに戻ってきますから」
「……ええ」
「玻璃には裏切れない理由がある」
「……ええ…そしてそれは私も同じ」
朔夜は微かに身体を震わせた。
「貴女は裏切ったりしませんよね? 朔夜」
「勿論よ。って言いたいところだけど…ごめんなさいね。私は玻璃ちゃんたちのためならいつでも貴方を裏切れるわ」
朔夜が言うと、彼は目を伏せる。
「そうでしたね。貴女は。昔から自分よりも妹たちを優先させる人だということを忘れていたようです」
力なく微笑む彼に、朔夜は困ったように笑いかける。
「ごめんなさいね」
「朔夜、世界の全てが僕の敵であったとしても、貴女にだけは僕のそばに居て欲しいと願ってしまう」
「それは無理よ。私はあの二人を守るためだけに生かされた存在。私はまだ彼女との誓いを果たしきれて居ないの」
朔夜の目には覚悟が宿っている。
それを見て、セシリオはため息を吐く。
「嘘でも「そうしましょう」と答えて欲しいところだったのですが……貴女は相変わらずあの女の言いなりですか? 魔女なんて信用するものではありませんよ」
「あら、私だって魔女みたいなものじゃない?」
「あんな悪女とは一緒にしませんよ。僕はいつの日かあの女を殺します。それでも貴女はあの魔女を信頼するのですか?」
「ええ、貴方よりはずっと」
「酷い人だ」
「今更、でしょ?」
そう、朔夜が笑うと彼も笑い出す。
二人の笑い声を聞いた部下たちが震えだしたことに、二人が気付くことはなかった。