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Take Five Science Fiction

降霊術

掲載日:2026/07/13

本作品は、示唆や教訓を内包しない、純粋に娯楽作品として読まれるべきものである。


※(改)とありますが、誤字脱字、読みやすさに関わる文体などの若干の修正のみです。

 その部屋の中は真っ暗で、真ん中にポツンと蝋燭ろうそくが灯っていた。

 蝋燭ろうそくは、小さな丸テーブルの上の簡素な燭台しょくだいの上にあり、その明かりが、周囲をゆららめきながら照らしている。

 テーブルは幾つかの一人がけのソファに囲まれ、その一つに、一人の男が座っていた。

 男はスーツ姿ではあったが、今は力なく品垂しなだれ、まるで終電で何処いずこへか運ばれていく、寝過ねすごしているサラリーマンのようにも見えた。

 部屋の中は、甘いこうかおりに満ちている。不快なほど濃くもなく、気が付かないほど薄くもない。

 ソファの後ろには、別の男たちが緊張した面持ちで、その力なくソファに座る男を見つめていた。

 見れば、座っている男の頭には、いくつもの電極の付いた脳波計がかぶせられ、袖からは、何本かコードが出ている。

 それらは、椅子の後ろにある細長い机の上に置かれた、様々な機器へと伸びていた。

 また、部屋の四隅には、それぞれ集音マイクと、紫外線から赤外線まで録画可能な大型のカメラ、そして様々な波長の電波を受信可能なアンテナ類、幾つかの特殊な観測装置が設置されている。

 機器の後ろには、操作そうさにあたる男たちが数人、パイプ椅子に座っていた。

 やがて、座っている男の脇に立っていた別の男が、ソファの横に立ち、片膝かたひざを折ってソファに座る男の脈を見た。

 脈を確認すると、ソファの後ろに立っている別の男の方を見て言う。

「…始まります」

 ソファの後ろに立っていた男は、振り返ると、機器の操作をしている男たちにうなづく……

 数十秒も過ぎた頃、ソファに座っていた男の体が、痙攣けいれんを始めた。

 不随意ふずいいに、奇妙に…まるで体を扱いれていない者が、何とか操作しようとしているようにも見える。

 その奇妙で、ギクシャクとした動きとともに、男が声をらし始めた。

「あー、えーあー、うーおー…」

 声を出すばかりで、それは意味をしておらず、子音しいん母音ぼいんの区別すら怪しい。

 息をつくのも忘れたかのように、あるいはそんな事に気が付かぬように、肺の中の空気をすべて声にして…そして思い出したかのように、大きく息を吸う。

 足先から頭の先まで、痙攣けいれんのように、てんでバラバラ…非同期ひどうきに動かす。

 でたらめな準備運動のようにも…あるいは生まれたばかりの赤子の動きにも見える。

 そして男の声は、奇妙な体の動きと連動していない。

 やがて、なんとか言葉だけは、それらしいていしてきた。

「えあー、おー、ごーにんー」

 5人。

 この部屋の中にいる…ソファに座る自分自身を除いた人間の数だ。男はソファの上に項垂うなだれて、目を閉じたままだったが、間違いはなかった。

 脈をとっていた男は、再度、ソファの後ろに立っている男にうなづく。

 ソファの後ろに立っていた男は、機器を操作している男たちに手で合図を送り、項垂うなだれている男の前に立った。

「おまえは、何者だ」

 ソファに座ったままの男は、手足をカクカクと動かす。まるで、それで意味が通じるかのように。

 あるいは、操作すべきレバーやボタンを間違えて押されたロボットのように。

 そして、男は、何かの間違いに、ようやく気がついたかのように声を出す。

「えーべぁーカカカカカカ、く、けくかあキー」

 イントネーションも発音も、人間のそれとは思い難い奇妙な「音」。

 間違いなく項垂うなだれた男の口から漏れている「声」だが、壊れかけた金管、あるいは木管楽器から漏れる音のようにも聞こえる。

「………」

 質問した男は、眉根を寄せ、ため息を付いた。

何故なぜ、ここに来た?」

 男は質問を変える。

 項垂うなだれた男は、また奇妙な動きを始める…が、今度は先程のような長い前振りもなく、でたらめな体の動きを止めることもなく、口を開く。

「えー、けー、くぇ…せーっしょーっく、おー、ぽー、たいーわ、つーきー、けー、こーりうー」

 接触、対話、交流。

 質問した男は、顎に手をやり、しばらく考えた後に、さらに質問した。

「お前たちは…どこにいる?」

 再び、奇妙な動き…先程よりも短く、極端でもない。

「く、ぺ、カ、きききき、ぷー」

 意味不明の…だが、やがて、一旦言葉を切って、再度言い直す。

「まー、巻いーひーげー、らー…らせん、うーずー、まー、きー」

 巻きひげ、螺旋らせん、渦巻…意味はかるが、訳がわからない。

 男は苛立いらだったように、男の座るソファの前を、何度か歩いて往復し、振り向いて口を開く。

「さっき、接触、対話、交流と言ったな?、何故なぜだ?、目的は何だ?」

 項垂うなだれたままの男は、今度は数度すうど痙攣けいれんしただけで言葉をす。

 とぎれとぎれながら、意味が取れるようになってきた。

「みー…みち、みちびーく…。」

 立っている男は、項垂うなだれた男を見た。

 答えていない間は、身じろぎすらせず、呼吸も特に乱れていない。麻酔をかけられたか、昏睡こんすいしているかのように見える。

「…誰をみちびくのだ?」

 項垂うなだれたままの男は、そのまま頭を数度カクカクとらし、手足をバタバタと動かして、答える。

「おー、おまーえたち。」

 立っている男は、眉根まゆねを寄せた。

「どこに?、どこにみちびこうというのだ?」

 項垂うなだれた男は、もう体を痙攣けいれんさせることはなかった。

「巻きひげ…螺旋らせん渦巻うずまき、きー…なか、おー、おくかさーなーり」

 どういう意味なのか?。わからない。

 少なくとも場所にかかわる…場所を連想れんそうさせる事を聞いても、意味のある答えをられそうにない。

何故なぜみちびくのだ?」

 項垂うなだれた男は、今度は小首をかしげたで答える。

「う、渦巻うずまき…螺旋、流れ…共に…おくみちびく…」

 渦巻うずまき螺旋らせん先程さきほど、どこに居るのか、と訪ねた時と同じ場所、「渦巻うずまき螺旋らせん」のおくみちびく、という訳か。

 しかし、なぜ導くのか、の理由は、やはりハッキリしない。

渦巻うずまきの奥にみちびくため、というのは分かった。だが、何故なぜ、我々をそこにみちびくのだ?」

「よ…い、よい結果…良いみちびき…すぐれた…よりすぐれるため…」

 その答えを聞き、腕組みをした男は、天をあおいで、ため息を付いた。

「お前たちは…我々よりすぐれた存在だ、とでも言うのか?、それとも逆なのか?」

 項垂うなだれた男は、フラフラと首をらして答える。

「お、お前たちは、若い…わ、若い。いい。」

 立っている男は、再び眉根を寄せる。

 そして、腕組みをしたまま、口を開き、ゆっくりと問いかける。

「お前たちが、我々よりすぐれた存在だと言うのなら、この問題に答えられるはずだ。」

 そこで、深呼吸を一つして、続ける。

「自分自身を除く、正の約数の和が、自分自身に等しくなる自然数に、奇数のものは存在するか?」

 項垂うなだれた男は、即座そくざに答えた。ようやくこの体に馴れたかのように、流暢りゅうちょうに。

「答えられない。」

 その答えを聞いて、立っている男は腕組みを解いて、詰め寄る。

「なぜだ?、我々より優(すぐれている、というのであれば、この問いに答えられるはずだ。」

「答えられない。」

 立っている男は、ため息を付いた。

 そして、項垂うなだれたままの男の、脈をとっていた男に、目配めくばせする。

 脈をとっていた男は、目をつぶり、「分かった」と答える代わりに頭を縦にる。

 実験は、終わった。


「それで、なにか奇妙なバイタルサインでも見つかったのか?」

 数日後。大学の研究室の一室、あの日、項垂うなだれていた男の前に立って、質問していた男は、白衣を着て、部屋の中央にある、長方形の白い机の窓側に座っていた。

 テーブルの周囲には、五人の男たちが座っている。あの時、部屋に居た五人だ。脈をとっていた男と、もう一人を除いた三人…立っていた男も含めて全員が白衣を着ている。

「ええ、先生。非常に興味深い、というか奇妙な点が幾つかあって……」

 報告している白衣の男は、手に持っていたタブレットを机の上のプロジェクタに近づける。

「これです」

 と、プロジェクタが白い壁に波形を映し出した。

「あの時、被験者の脳波は、計測開始から終了まで、完全なδ(デルタ)波を示していました。通常の最も深い睡眠でも、計測脳波波形の50%以上とはなりますが、完全なδ(デルタ)波が維持されるのは、極めて珍しいケースです。しかも、その間に会話も行っていますし、不随意ふずいいだと考えられますが、痙攣様けいれんようの身体の動きも確認されています。これは非常に特異とくいな現象であると言えるでしょう。」

 『先生』と呼ばれた、男は顎に手をやって、その結果を確認した。

 あの霊媒師は、椅子の上でずっと、睡眠第四段階にあったことになる。

 爆睡している、と言っていい、最も深い眠りの中で、手足を動かし、自分の質問に答えている。

 極めて奇異きいな事ではあるが、これまで『先生』が研究してきた、様々な宗教で行われる瞑想めいそうにおいて、そうした現象を思い起こさせる例が無いではなかった。

 ここまで顕著けんちょ明瞭めいりょうな応対が出来たケースは初めてだが…たゆまぬ訓練を重ねれば、不可能であると断じることは出来ない。

 『先生』は、白衣を着ていない、長身で黒いシャツを着た男の方を見る。

「奇術師の立場から、こうしたトリックはあり得ると考えますか?、ご意見を。」

 黒シャツの長身の男は、ため息を付いて腕組みする。

「私の奇術の範囲で再現さいげんするのは……不可能ではないでしょう。幾分いくぶん大仰となり、訓練も必要とされるでしょうが……奇術の範囲、欺瞞ぎまんの可能性は否定できません。脳波についても、ニセの脳波を計測させるために、頭皮とうひに電極を埋め込む、とか、そうした手段は考えられます。コストに見合う何かが得られるとは考えられないのですが、時間と予算さえ用意できるのであれば…可能です。」

 答えを聞き、口で深呼吸をした『先生』は、報告をした男に訊く。

「それ以外に…バイタルサイン以外に、気になる点は見受けられなかったか?」

 報告している男は、首を横に振った。

「計測結果を精査せいさしましたが、紫外線から赤外線、観測可能な範囲の電波、音、磁場、放射線に至るまで、完全に平穏へいおん…というか、特に不審な点は見当たりませんでした。ただ……」

「ただ?」

 『先生』は先をうながす。

「ええ、実験と直接の関係はないんですが、あの時、実験室に入ってなかった控えの連中、あの時、控室ひかえしつでソシャゲやってたらしいんです。で、全員揃って、なんか『絶対出るはずがない』って、言われていた、ものすごいレアキャラを連続で次々と引き当てたそうで、SNSでも、ちょっとした話題になったそうですよ?、運営が不正行為を疑って、取得時のログを精査せいさしたくらいで。」

 『先生』は、呆れたように、ため息を付く。

「まったく…」

 それから、少し神経質にテーブルを指でトントンと叩き、もう一人の白衣でない男…項垂うなだれていた男の、脈をとっていた男の方を向いた。

「…以上です。今回の降霊術…霊的な存在との交信実験は、あの方…霊媒師の欺瞞ぎまんである、そう判断せざるを得ない、いう結論に至るのですが、よろしいですか?」

 脈をとっていた男は、怒るでも、焦るでもなく、ただ微笑ほほえんで答えた。

「厳格な実験を行い、その結果の科学的な検証の末に、そう結論をくだされたのであれば、それは仕方のないことです。」

 『先生』は、安心したような深呼吸をした。

「ご協力ありがとうございます。では記者会見の準備をさせていただきます。記者会見の場に、霊媒師の方ともども、ご同席いただけるかどうか確認いたしますので、後ほどまたお願いいたします。」

 そして全員が席を立った。


 巻きひげ。

 螺旋らせん

 量子の流れ、つながり、跳躍ちょうやく、その深遠しんえん

 波。

 彼らはたたみ込まれた次元と時間の火花を下に、熱とエントロピーのくびきとらわわれず、おたがいの巻きひげを伸ばし、確率をらし、螺旋らせんを重ね、波をひびかせ、思考する、記憶する、接触せっしょくする、議論ぎろんする、検証けんしょうする。

接触せっしょくは、(私/私達)にとって、残念な結果となった。」

「(貴方/我々)は、その接触せっしょくを推進した。そして失敗に終わった。」

「我々の巻きひげにとっても、失敗である。」

「これにより消費した可能性については、うまい。(貴方/我々)の経験に対する必要な代償だいしょう見做みなされよう。」

「(私/私達)は、%&#について十分な知識を持っていなかった。」

爾云しかり、(私/我々)が危惧きぐした通りに。」

「(私/私達)は、%&#が、よりよい判断基準を持っている、と予想よそうしていた。」

「だが、そうではなかった。%&#は、充分な知性を持ちていなかった。」

「(私/我々)が、残念に思うのは、充分な知性が無かった点だけではない。」

「(私達/我々)は、%&#が、当初から『彼らのとっての未解決問題』の解答を求めるとは、予測よそくしていなかった。」

「(私/我々)の意味論的いみろんてき分析ぶんせきれば、我々という存在が、%&#にとっての〈超越ちょうえつ〉である事を、確認するための質問であった。」

「(私達/我々)が、%&#よりもすぐれた知性体であることの、確証かくしょうるための行動であった。」

「しかし、%&#みずからの知性で解決しうる問題の解答を求める事は、あまりに浅慮せんりょ、かつ短絡的たんらくてきである。これは、(私達/我々)の許容きょよう範囲はんいではない。」

爾云しかり。自ら問い、求め、解き明かすべき問題の解決を、安易あんい他者たしゃゆだねるべきではない。」

「我々はまた、知性には、事実に対して、謙虚けんきょである事が必要であると考えている。」

「%&#は、彼らの知性のみで、解決不可能な問題に対して、謙虚けんきょではなかった。」

「与えられたヒントを無視すらした。」

「彼らの持てる、『数学』と呼ばれる学問と、その時点での観測能力、観測範囲のみで、全てを理解できると判断していたのは、(私/我)にとって真に残念であった。」

「(私達/我々)は、他の接触において、この経験をかさなければならぬ。」

爾云しかり。(私/我々)自身の謙虚けんきょさも、再確認しなければならぬ。」

接触せっしょくは失敗し、%&#は巻きひげに加えるには、相応ふさわしくない事が判明した。」

「とは言え、彼らは、相応そうおうの知性を持ち得ている、可能性も。故に、彼らは、尊重そんちょうされねばならぬ。」

「彼ら、%&#の可能性に依って、彼ら自身の手で扉を開くやもしれぬ。」

「その可能性が具現化ぐげんかする事を、祈るしか無い。」

「%&#もやがて、我々に巻きひげを伸ばすやもれぬ。」

「我々は、如何いかにすべきか?」

「彼らの未来にいて、%&#が、己の謙虚けんじょう尊重そんちょうの失われている事を自覚する事のあれば、いずれは彼らと我々の巻きひげは重なるであろう。螺旋らせんを共にし、深遠しんえんを目指すであろう。」

「その時まで、我々は、%&#に対しての巻きひげを閉じるとしよう。」

「我らの%&#への巻きひげの再び解かれ、重なるその時の、く来たりますように。」

爾云しかり…」

 …議論は終わった。

 かくて%&#、つまり地球人類への巻きひげは、閉じられた。

 人類自身が、己の思索しさく探求たんきゅうのみで、その高みにたどり着くその日までは。

 そして2つの超知性は、重なり合うその巻きひげを解く。

 お互い、他の数多あまたの超知性とつなががりを失うこと無く、しかし、独立した思索しさくに、再びふける。

 巻きひげの中の、数多の知性とともに。

 問題、謎、疑問、そうした言葉で表される『未解決』を求め、観察し、思考思索しこうしさくし、解き明かし、螺旋らせん渦巻うずまき、波と巻きひげにおさめ、より高みを目指す。

 登り果てることの出来ぬ、無限の思索しさくと思考と知識の階段を登り続ける。

 全知のはてにあるものは、完全なる無知、無思索であると知りながら。

 そこには決して、たどり着けぬと知りながら。



「この実験に於いて…詳しい説明は配布はいふしたプリントの中に示されていますが、全ての観測機器で、異常な値は発見できませんでした。また、脳波についてもδ(デルタ)波の顕著な検出…全てがδ(デルタ)波になるという異常な結果ではありましたが、睡眠中であっても、脳波が100%δ(デルタ)波となる事はありえず、逆に何らかのトリックが疑われています。」

 『先生』は、記者たちの前の白く長い机の中央に陣取り、カメラや記者の視線を集めながら、説明を続ける。

「そして、こうした『降霊術』で、最も大きな疑問点となったのが、自らを『人類をみちびく存在である』と、主張しながら、人類の数学上の未解決問題の解を求めたところ、即座そくざに回答を否定した所にあります。つまり彼らは、そうした問題への答を持ち得ていない…少なくとも、人類を超えた存在ではないのです……これらに対する詳細はプリントと、のちの質疑応答の際となりますが、こうした科学的な観測と検証の結果から、我々は、今回の降霊術実験における、『降霊』、『上位存在と主張する何者かとの接触』は…残念ながら、実在する現象ではなく、霊媒師なる人物に因る虚偽きょぎ虚構きょこう…ペテンである、と結論付けざるを得ないのです……」

 シャッター音が響き渡り、フラッシュが次々と光る。

 その光と音に包まれ、『先生』の顔は、紅潮こうちょうしていた。


(了)

これらの全ては虚構であり、実在し得ない物語である。

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