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深夜のタクシーを止める「Sランクの男」

「運転手さん、もっとスピード出せませんか!?」

「いやお客さん、これ以上は無理ですよ! 警察に捕まっちゃいます!」


 深夜の首都高。

 タクシーの中で、私は半泣きになっていた。

 

 怖い。

 ストーカーが怖い。

 いや、ただのストーカーなら警察を呼べばいいが、相手は『剣聖』レオンだ。

 剣一本でドラゴンを解体する人間兵器だ。

 警察が束になっても勝てる気がしない。


『感知した』


 さっきのメッセージが脳内でリフレインする。

 私の魔力?

 ただの社畜に魔力なんてあるわけない……いや、待てよ。

 今の私は『幻影のチョーカー(500万)』をつけている。

 もしかして、この魔道具の魔力を探知されたのか!?


「……迂闊だった」


 私は唇を噛んだ。

 Sランク冒険者の索敵能力をナメていた。

 彼らは魔力の波長を指紋のように識別できるという噂を聞いたことがある。


「へ、変装……変装しなきゃ!」


 私は座席の中で、再びスーツを脱ぎ捨て、ドレスを羽織った。

 もし追いつかれた時、「OL久住」の姿で会うわけにはいかない。

 会うなら「女神マリア」でなければ。


 その時だった。


「ひぃっ!?」


 運転手さんが悲鳴を上げ、急ブレーキを踏んだ。


 キキキキキッーーー!!


 タイヤがアスファルトを削る不快な音が響く。

 身体が前のめりになる。

 な、何事!?


「お、お客さん……人が! 高速道路に人が!」


 運転手さんが震える指で前方を示す。

 ヘッドライトの光の先に、一人の男が立っていた。

 

 風にたなびく金色の髪。

 現代日本には似つかわしくない、純白の騎士風ロングコート。

 そして、背中には大剣。


「……レオン」


 私は絶望した。

 走っているタクシーの前に生身で立ちふさがるなんて、正気か。

 いや、彼ならタクシーごと一刀両断できるから、止まらなければ死んでいたのは私たちの方だ。


 コンコン。


 助手席の窓が叩かれる。

 運転手さんが腰を抜かして動けないので、私は覚悟を決めて窓を開けた。

 もちろん、チョーカーのスイッチはオンだ。


「……何の真似かしら?」


 私は震える声を必死に抑え、女神マリアの声色で言った。

 レオンは、私の顔(幻影)を見て、少し驚いたように目を見開いた。


「やはり、君か。

 驚かせてすまない。どうしても、君が近くにいる気がして」


「高速道路を封鎖するのが、あなたの挨拶?」

「他に方法がなくてね。メールも返ってこないし」


 悪びれもせずに言う。

 イケメンは何をしても許されると思っているのだろうか。

 私はため息をついた。


「それで? 私に何か御用?」

「ああ。これを渡したくて」


 レオンは懐から、手のひらサイズの小さな箱を取り出した。

 黒いベルベットの小箱。

 どう見ても、指輪ケースだ。


 ドクン。

 心臓が跳ねた。

 ま、まさか、プロポーズ!?

 会って数回(しかも全部すれ違い)で!?


「……受け取れないわ。理由のない贈り物は」

「理由ならある。

 君の料理への対価だ。

 それと……これから先、もっと多くの食材を持ち運ぶことになるだろうと思ってな」


 食材?

 私は首を傾げた。


「開けてみてくれ」


 促され、私は恐る恐る箱を開けた。

 中に入っていたのは、シンプルな銀色の指輪だった。

 中央に、透き通るような青い石が埋め込まれている。


「綺麗……」

「『亜空間の指輪アイテムボックス・リング』だ」


「ッ!?」


 私は思わず箱を取り落としそうになった。

 アイテムボックス。

 それは、冒険者なら誰もが喉から手が出るほど欲しがる、夢の魔道具だ。

 異空間に荷物を収納できるため、重たい荷物を持つ必要がなくなる。

 しかし、その製造技術は古代文明の遺産ロストテクノロジーであり、現代では再現不可能と言われている。


「こ、これ……国宝級じゃ……」

「容量はそこまで大きくない。2トントラック一台分くらいだ。

 クラーケンの足なら数本入るだろう」


 レオンは事も無げに言う。

 2トン!?

 市場価格にしたら、億……いや、10億はくだらない。

 国家予算レベルの代物だ。


「受け取れません! こんな高価なもの!」

「金なら払った。君へのスパチャだと思ってくれ」

「スパチャの額がおかしいのよ!」


 私が叫ぶと、レオンはフッと笑った。

 その笑顔は、少年のように無邪気で、悔しいけれど少しときめいてしまった。


「持っていてくれ。

 君が重い荷物を持って歩いていると思うと、私が心配で夜も眠れないんだ」


「……っ」


 ズルい。

 そんなことを言われたら、断れないじゃないか。


「……わかったわ。預かっておく。

 あくまで『業務用の備品』としてね」


 私が受け取ると、レオンは満足げに頷いた。


「ああ、それでいい。

 では、気をつけて帰ってくれ。運転手殿も、驚かせてすまなかった」


 レオンは懐から1万円札の束(厚さ1センチくらい)を取り出し、運転手さんの膝の上にポンと置いた。

 そして、風のように姿を消した。


「……な、なんだったんだ今の……」


 運転手さんが震えながら札束を見つめている。

 私は手の中の小箱を握りしめた。

 指輪の冷たさが、現実であることを告げていた。


 ◇


 アパートに帰宅した私は、すぐさま指輪の検証を行った。

 

 指にはめるのは何となく気が引けたので、チェーンを通してネックレスにする。

 指輪に魔力を流し込むイメージをすると、目の前に半透明のウインドウが開いた。


 【収納空間:空き容量 2,000kg】


「……マジだ」


 試しに、部屋にあった座椅子を入れてみる。

 シュン!

 一瞬で消えた。

 取り出すイメージをすると、シュン!と手元に戻る。


「すごい……! これなら、ゴミ出しも一瞬だし、スーパーの買いだめも楽勝じゃない!」


 感動ポイントが庶民すぎるが、生活革命だ。

 もう重いお米を持って階段を登らなくていいのだ。


「でも、これ10億くらいするんだよね……」


 改めて金額を考えると、胃が痛くなる。

 もし無くしたら?

 もし傷つけたら?

 

「……金庫。金庫買おう」


 私は布団を頭から被った。

 

 枕元には、300万円の残高が入ったスマホと、10億円の指輪。

 私の六畳一間のボロアパートが、今や日本で一番「地価(中身)」が高い場所になっている気がする。


 眠れるわけがなかった。


 ◇


 翌日。

 寝不足の目をこすりながら出社すると、課長が満面の笑みで飛んできた。


「おい久住! 昨日のメール見たか!

 マリア様から『お礼のメール』が届いたぞ!」


「はぁ……よかったですね」


 私が(寝る前に自分で)送ったやつだ。


「『昨夜は素敵な時間をありがとうございました。山田様のお人柄に感動しました』だと!

 ガハハ! やはり私の魅力が伝わったようだな!」


 課長はプリントアウトしたメールを額に入れて飾ろうとしている。

 めでたい男だ。


「それでな、久住。

 マリア様が『今度、新鮮な食材が手に入ったら、また山田様に食べていただきたい』と書いておられるんだが……」


 ギクリ。

 確かに書いた。社交辞令として。


「どうやらマリア様は、食材の運搬に困っているらしい。

 そこでだ! 我が社で『運搬車』を用意しようと思う!」


「……はい?」


「軽トラだ! お前が運転しろ!」


 課長がビシッと私を指差した。


「はぁ!? 私が!?」

「当たり前だ! マリア様の使いっ走り……いや、サポートはお前の役目だろ!

 免許持ってるよな? よし、決定だ!」


 勝手に決められた。

 軽トラ。

 私が軽トラで、マリア様(私)の食材を運ぶ。


(……待てよ?)


 私は胸元のネックレス(指輪)に触れた。

 この指輪があれば、軽トラなんて必要ない。

 でも、会社には「軽トラで運んでいます」と報告して、実際はこの指輪を使えば……。

 

 浮いたガソリン代と、レンタカー代。

 そして「運搬業務」という名目のサボり時間。


(……悪くないかも)


 私はニヤリと笑った。


「わかりました、課長。その任務、謹んでお受けします。

 その代わり、直行直帰を認めてくださいね」


「おう! 成果さえ出せば文句は言わん!」


 言質は取った。

 こうして私は、会社の金で堂々と「食材探し(ダンジョン探索)」に出かける権利を手に入れたのだった。

 レオンからもらった10億の指輪を隠し持って。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
ガソリン代、レンタカー代をポッケに入れちゃうと、流石にそれは横領になっちゃわないかい?色々設定がガバガバすぎないかな?
10億ドルならまだしも10億円が国家予算はちょっと 主人公の感覚にしてもおかしい 2tも運べるなら10億どころの価値ではないね、密輸し放題
容量2tの指輪に一本2tの足が何本も入る訳ねーだろ!この作者、設定ガン無視でその場のノリと勢いで書いてるな?
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