第二章:毒を含んだ舞踏会
ノルトハウゼン侯爵家の舞踏会は、煌びやかだった。
シャンデリアがきらめき、貴族たちの笑い声が舞い上がる。
だが、キャサリンが会場に入ると、ざわめきが止んだ。
「ああ、来たわね。悪女の登場よ」
誰かが小声で嗤う。
キャサリンは耳を貸さず、王太子ディランの前に立った。
「ご無沙汰しております、殿下」
ディランはわずかに眉をひそめたが、礼儀正しく会釈を返す。
「キャサリン嬢。噂は聞いています。気をつけてください」
「はい、もちろん」
彼女は微笑んだ。
そして、王妃ヴレンダの元へと歩み寄つ。
「ヴレンダ、久しぶりね」
「キャサリン……まだこの国にいたの? 恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいのは、あなたの方じゃないかしら?」
キャサリンの声は、あくまで優雅。
そして、二人にしか聞こえない声で囁いた。
「父を陥れたのは、あなたよ。王妃になっても、良心の呵責はないの?」
ヴレンダの顔が一瞬、歪んだ。
だがすぐに、甘い笑みを浮かべる。
「何を言ってるの? あなたが父を殺そうとしたのは事実じゃない」
「証拠はないわ」
「でも、世間は信じてる」
「それなら、私が信じてもらうまでよ」
その夜、キャサリンは突然、倒れた。
口から泡を吹き、痙攣して。
「これは……毒です!」
駆けつけた医師がそう叫ぶ。
そうして検査で判明したのは──キャサリンが飲んでいたワインから毒が検出されたことと、詳しい捜査の結果、グラスに王妃の指紋が残っていたことだった。
捜査結果を聞いたヴレンダの顔が青ざめる。
数日後、キャサリンは意識を取り戻すと、涙を浮かべて見舞いに来た王妃に言った。
「なぜ……なぜ私を? 私はあなたを姉のように慕っていたのに……!」
その現場を見ていた、従者や城の関係者の口からその事が広まり、国中が騒然となる。
芋づる式に王妃の悪行が露見し、彼女の信用が、一気に揺らぐこととなった。
それを知ったキャサリンは、静かにほくそ笑む。
毒は偽物。
倒れたのは演技だった。
ヴレンダの動揺を誘い、証拠を残させるための、狡猾な罠だ。
「悪役なら、これぐらいしなくっちゃね」