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第9話 夜明けに残るもの(リオス視点)
勝ちどきの声が平野に響き、冷たい朝の空気が少しだけ温くなった。
剣を地面に突き立て、肩で息をする。
鎧はひどく傷み、脇腹の包帯は赤く染まっていた。
だが、生きている。
──生かされた。
顔を上げると、遠く塔の窓に小さな影があった。
白い衣が朝の光を受けて輝き、こちらを見ている。
セラだ。
胸の奥が、不思議な安堵で満たされる。
声は届かない。
けれど、唇だけで伝える。
「……また、必ず会おう」
その瞬間、彼女の輪郭が揺らいだ。
光が足元から立ち上り、細い糸のように空へ昇っていく。
笑顔が残り、そして──消えた。
何が起きたのかは、すぐには理解できなかった。
ただ、胸の奥に強く熱いものが宿っていた。
それは剣でも、鎧でもない。
彼女が自分に託した、命そのもののように思えた。
東の空に、一番星がまだ残っていた。
夜明けの空でただひとつ、遅れて瞬く星。
その光を、リオスは胸の中で握りしめた。
「どんな世界でも、必ず……」
その誓いは、剣よりも深く、星よりも遠くへ届くものになった。