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第8話 星の沈黙
東の空が白み始めた頃、王都の鐘が三度鳴った。
勝利の合図──だが、その音は胸に深く沈むだけだった。
戦が終わり、街は再び息をつき始めている。
けれど塔の天文室だけは、夜と朝の境に取り残されていた。
机の上の星図は静まり返り、銀糸の線はもう動かない。
中央に刻まれたのは、自分の名。
運命の支払いは確定した。
足元がふらつき、窓辺に手をつく。
外では兵たちが帰還し、勝ちどきの声が上がる。
その中に、リオスの姿を探す。
……いた。
鎧の一部が欠け、包帯が覗いているが、確かに生きている。
それだけで、体の奥から温かさがこみ上げた。
彼はこちらに気づき、笑った。
声は届かない距離なのに、その唇が確かに動く。
「……また、必ず会おう」
「どんな世界でも、必ず」
そう返そうとした言葉は、胸の奥で震えただけで声にならなかった。
足元から光が立ち上り、視界が遠ざかる。
星々の呼吸に溶けるように、身体がほどけていく。
最後に見たのは、彼の笑顔と、空の真ん中で瞬く一番星だった。