第7話 約束の現在形
流星群の夜から数日。
千崎紗良と星野凌央は、今まで以上に一緒に過ごすようになった。
授業の合間に並んで歩く廊下、帰り道の交差点、手を繋ぐ瞬間の“普通”が、涙が出そうなくらい愛しい。
ベンチに腰を下ろし、缶コーヒーを受け取る。
指が触れただけで胸が温かくなる。
「ありがとう」
「ブラックでよかった?」
「うん。……リオスも、こういうの飲んでた?」
冗談めかして言うと、凌央が目を細める。
「その名前で呼ばれると、特別な感じがする」
「……セラも、そうだよ」
前世の呼び名を交わすだけで、世界が少しだけ明るくなる。
戦わなくていい。背中合わせじゃなくていい。
ただ向かい合って笑えばいい。
「この世界では、私たちは普通の大学生」
「うん」
「でも、覚えてる。全部」
「俺も。だから──大事にしたい」
凌央が手を取って、優しく握る。
「君のためなら、何度でも生まれ変わる」
「そのたびに、必ず見つけてね」
喉の奥が熱くなって、紗良は笑いながら泣きそうになる。
「もちろん」
名前を使い分ける特権は、二人だけの秘密だ。
千崎紗良と星野凌央として生きながら、時々、セラとリオスで呼び合う。
それだけで、永遠に触れられる気がした。
冬の並木道は、柔らかな灯りに包まれていた。
吐く息の白がイルミネーションに溶け、二人の歩幅は自然に揃う。
公園のベンチに腰を下ろし、空を見上げる。
澄んだ夜に、星がいくつも瞬いていた。
「リオス」
「ん?」
「……ただ呼んでみたかっただけ」
「なら、俺も。……セラ」
その名を交わすだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
その瞬間、二筋の流れ星が並んで走り、淡く消えた。
約束は、現在形のまま、静かに続いていく。
もう戦う必要はない。ただ一緒に、この世界を生きていく。
それが、二人の新しい物語だ。
「星が結んだ永遠の約束」これにて完結です!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
また次の作品でお会いできますように。




