第5話 同じ夢を見ていた
カフェの窓ガラスに、夜の街が薄く映っていた。
湯気の立つマグを両手で包みながら、紗良は切り出すタイミングを探す。
言えば壊れるかもしれない。でも言わなければ、胸の中の痛みは行き場を失う。
「変なこと、言っていい?」
「うん」
凌央は真っ直ぐにこちらを見る。
「最近、同じ夢を見るの。何度も──背中合わせに誰かと立ってて、剣の匂いがして、誰かの呼吸がすぐ……」
喉が詰まる。言葉の先が、夢と現実の境でほどけてしまいそうで。
★
「俺も」
気づくと、先に出ていた。
紗良の目が見開かれる。
「何度も同じ夢を見る。知らない景色なのに、懐かしい場所。背中に人がいる。
……そして、名前を呼ばれる。今の俺の名前じゃない、もっと遠い音で」
言葉にしてしまうと、胸の奥の空洞に風が吹き込む。
痛い。でも、どこか救われてもいた。
やっと、同じ場所の話ができた。
二人の間に、静かな沈黙が落ちる。
店内の音が遠くなる。
紗良が息を吸い、頷いた。
「流星群の夜、屋上で会おう。……確かめたい」
「確かめる?」
「この夢の、続き。……約束の、意味」
彼女の「約束」という言い方に、胸が熱くなる。
言葉はまだ出てこないのに、身体のどこかがもう答えを知っているみたいだった。
店を出ると、冬の気配が一段深くなっていた。
見上げた空は雲が薄く、星がいくつか瞬いている。
そのどれもが、どこかで一度見た気がしてならない。




