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第5話 同じ夢を見ていた

カフェの窓ガラスに、夜の街が薄く映っていた。

湯気の立つマグを両手で包みながら、紗良は切り出すタイミングを探す。

言えば壊れるかもしれない。でも言わなければ、胸の中の痛みは行き場を失う。


「変なこと、言っていい?」

「うん」


凌央は真っ直ぐにこちらを見る。


「最近、同じ夢を見るの。何度も──背中合わせに誰かと立ってて、剣の匂いがして、誰かの呼吸がすぐ……」


喉が詰まる。言葉の先が、夢と現実の境でほどけてしまいそうで。



「俺も」


気づくと、先に出ていた。

紗良の目が見開かれる。


「何度も同じ夢を見る。知らない景色なのに、懐かしい場所。背中に人がいる。

 ……そして、名前を呼ばれる。今の俺の名前じゃない、もっと遠い音で」


言葉にしてしまうと、胸の奥の空洞に風が吹き込む。

痛い。でも、どこか救われてもいた。

やっと、同じ場所の話ができた。


二人の間に、静かな沈黙が落ちる。

店内の音が遠くなる。

紗良が息を吸い、頷いた。


「流星群の夜、屋上で会おう。……確かめたい」

「確かめる?」

「この夢の、続き。……約束の、意味」


彼女の「約束」という言い方に、胸が熱くなる。

言葉はまだ出てこないのに、身体のどこかがもう答えを知っているみたいだった。


店を出ると、冬の気配が一段深くなっていた。

見上げた空は雲が薄く、星がいくつか瞬いている。

そのどれもが、どこかで一度見た気がしてならない。

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