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第8話 準備と会議

帝国歴199年


帝国西部 ヤン族集落



宴から一夜が開けた。



ヤン族は、朝から族長から呼びかけにより広場に集まっていた。



「今日は、ある発表がある」

族長はそう言うと、フィリッポスを自分の横に立たせた。

「我らを救ってくれた、フィリッポス殿がしばらくの間私たちの居住地に滞在することになった。何か困ったことがあれば、この方に聞くように」

族長の呼びかけの後、ヤン族の皆は拍手や歓声が巻き起こっていた。

「皆さん、よそ者の私を迎え入れてくれてありがとうございます。私の目的は、この村を守るための力の養成、この村をよりよくしたい。その為には、皆さんの助けが必要です。これから、詳しい内容を説明します。」

フィリッポスは、これからについて語り始めた。

教育・農業・防衛の3本の柱を中心とした方策だった。

教育は、ガラパゴス村の方々を招いて勉強会を開くもので、農業は食料の生産をもっと上げていくための指導・『死なない』ことを最重要とした防衛術の指導を行うというものだった。


この方策は、当初はヤン族の皆からある程度反感を買うかもしれないと予測していたが、実際はヤン族から反応は良かった。何より重要な部分をわかりやすく説明している。

さらに、彼の声や話し方は心を揺さぶってくるのだ。


好感を得られたと判断したフィリッポスは、集まりを解散し、早速3本の柱を行うための準備を始めた。


「ヘンリー。あなたは役所に帰りなさい。もうそろそろ期日でしょう」

彼は役人だ。あまりにも長くいすぎると心配されるし、怪しまれる。

「しかし、私は,,,」

ヘンリーはあまり納得していないようだった。

フィリッポスは、彼の耳元に何か耳打ちをした。

それを聞いたヘンリーはハッとして、すぐに敬礼をした。

「かしこまりました!任務を果たします!」

「ああ、頼むよ。」



「ケネディは、俺が昨日話した通りに頼む」

「ええ、任せて下さい。」

ケネディはニッコリとして表情をしていた。

二人は、彼に託された「命令」を遂行するために元の場所へ帰っていった。



次の日から、早速フィリッポスの方策は実行された。

住民を農業・防衛の2組に分けた。

農業はフィリッポス・防衛は族長が担当し、実行された。


農業はガラパゴス村で行なわれていた農地を4つに分け、4つの農地ごとに一年ごとに植える作物をカブ・大麦・クローバー・大麦でローテーションして育てる農法を教えた。

防衛は、村の周囲に2重の堀を建設し、櫓なども建てられた。

訓練はフィリッポスから貰った教本を基に槍を使った訓練を行い、一つの軍としてまとまるための訓練を行っていった。

教育は、ガラパゴス村から連れて来た有望な者にフィリッポスがやっていたことと同じような講義を行っていった。講義をする者は月ごとにガラパゴス村で行われる講義での試験によって決められ、給金を高めに設定することで講師になることのメリットを与えた。


こうして、少しずつ基盤を作りながら、今後に備えていった。


------------------------------------------------------


フィリッポスのヤン族滞在から2週間後



帝国 枢密院


帝国のとある場にて

円卓を囲んで、会議が行なわれていた。

「報告は以上となります。議長。」

鷹のような鋭い目つきをした男が、報告をしていた。


「ふむ、今のところ反乱分子はないな。」

「はい、警戒は常にしていますが、今のところは」


「それでよい、小さな火を見逃さずに消していくのが枢密院の役目だ」


ここは枢密院。

帝国の極秘の機関であり、知っている者は少ない。

役割は反乱分子の排除。

山賊や盗賊が反乱軍とならないように監視を行っている。


「例の『赤獅子』の残党は?」

「相変わらず辺境で自警団として活動しています。」

「そうか、彼らが賊どもを束ねる可能性は?」

「今のところはありません。しかし、気になる行動が一つありました。」

「なんだ?」

「赤獅子残党の集落のところに、一人の商人が訪れていました。身元はまだ不明。彼らの集落に行商人などは訪れたことはなかった為、少し気になります」

「商人か、身元の断定を急げ。赤獅子の武力は決して侮ってはいけない。数は少ないものの、軍としての武力は中央軍をはるかに超えている。それが、大きな火種になることは避けたい」

「はい。特定を急ぎます。」


会議は終了し、発言していた人物は執務室で物思いにふけっていた。

「赤獅子か,,,」

彼の名は、ルベーグ。

枢密院の議長でありながら、帝国の政治を執り行う宰相だ。




そして、赤獅子の処刑に反対していた人物であった。



先ほどの会議の話を聞かされ、赤獅子の処刑を思い出した。

(皇帝陛下も愚かなことをしたものだ、あんな腐った大司教なんぞにそそのかされて)

ルベーグは、皇帝ではなく『帝国』という国自体に忠誠を誓った珍しい人物だった。

その為、現皇帝からはあまり好かれてはいないが、それを上回るほどの能力があるため、何も言えないのだ。皇帝は政治にあまり関心もないため、実質的にルベーグが政治の中枢を担っている。


赤獅子は将軍として置いておくには余りにも惜しい人物だった。

帝国が敗戦の危機に陥っていた状況を、救った英雄。

彼は「象徴」だった。

彼は「英雄」だった。


しかし、この才能が帝国に生まれてしまったことは悲劇だった。

帝国は古い国だ。いくつもの勢力ががんじがらめだ。

宗教・政府・軍部・地方。

一つの国としてまとまってはいるが、いつ崩れてもおかしくない。


この砂上の楼閣に少しずつ水をかけて固めているのが枢密院だ。

イスカンダルは、この楼閣にとって余りにも大きすぎる「水」だった。


個人としては、処刑には反対だった。

しかし、枢密院の議長としては賛成だった。


ある意味彼も、赤獅子の魅力にとらわれた人間だった。


「間違ったことはしていない。帝国のためには仕方ない犠牲だった。しかし、余りにも大きなものを失った。」

実際赤獅子の処刑後、枢密院の規模は3倍以上に膨れ上がった。

理由は、赤獅子処刑後の反乱分子の排除・あらゆる分野から赤獅子の痕跡を消すためだった。

それは成功した。

赤獅子の名前は消えた。

しかし、心には残る。これはどうしようもない。



帝国の民全員が反乱予備軍の可能性があるのだ。

だからこそ、なるべく中央軍を強化し、反乱のための対処をしなければならない。

ルベーグ自身も、いずれ反乱がおこることは分かっていた。

いっそのこと、自分も反乱に参加してやろうかとも考えた。


しかし、理性が阻止した。

自分は宰相だ。国を守る。それが役目。


反乱が起これば、確実に周囲の国が介入してくる。

かえって帝国の民の犠牲者は増える。


大きな犠牲を防ぐための小さな犠牲だ。

もうそれしかないのだ。


「私は天国には行けない。分かっているさ。」

ルベーグは自嘲気味に笑った。


どうか、赤獅子よ。

私を許せとは言わない。

ただ見守ってくれ。



だいぶ話の流れが速すぎるかなと心配している作者です....


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