第6話 病原菌と危機
帝国歴199年
帝国西部ガラパゴス村
フィリッポスの家
「今からする話は、誰にも言わないように。」
ケネディとヘンリーは黙って頷いた。
------------------------------------------------------
「私は、帝国の状態はお二人が言ったようにこの冊子の国と似ていると思います。役人による小さな賄賂が横行しており、軍部もそれに協力する。上の者は富を得て、下の者は搾り取られる。非常にわかりやすい。では、どうすればよいのか。役人を処罰する?軍部を処罰する?それとも役人たちに道理を語る?そんな方法では、その場しのぎにしかなりません。病気というものは根本を取り除かなければ、また再発する可能性があります。国もそうです。私は、元となっている病原菌を取り除くべきと考えます。」
ケネディは驚きの顔を隠せなかった。
帝国に巣くっている病原菌を倒す。つまりは、
「帝国の中央を倒すって事かい?確かにそれができれば、その手段が一番いいと思う。だが、しかし現実的じゃない。帝国は数十万の中央軍を抱えている。例え、地方の軍を動かせたとしてもすぐにつぶされてしまう」
ケネディも同じことを考えてみたが、無理難題だとあきらめてしまった。
帝国の中央軍は精鋭ぞろいとのうわさで、兵は数十万にも及ぶ。
反乱を起こすということは、その精鋭と矛を交えることになるのだ。
とてもじゃないが、勝てる見込みはない。
「ええ、確かにそうかもしれません。しかし、私にも考えはあります。成功するかは分かりません。この話は、私も初めて人に向けて話しました。」
そうしてフィリッポスはヘンリーの方向を向いた。
「大げさになってしまいますが、私が話している内容は国家反逆罪になりかねない内容です。しかも役人様がいる目の前で。申し訳ないです。」
ヘンリーは黙って聞いていたが、口を開いた。
「私は貴方が言うように役人です。今言ったことは確かに犯罪になるような行為かもしれません。しかし、私も同じことを考えていましたよ。この国は変わるべきです。まあ、方策は私にもわかりかねますが」
ヘンリーは何か覚悟を決めた眼差しでフィリッポスを見つめる。
「あなたとは昨日会ったばかりです。まだ私のことは信用できないかもしれません。しかし、私は貴方に何か特別なものを感じました。話は決して他所には漏らしません。どうか続きをお話しいただきたい」
ヘンリーはそう言って、頭を下げた。
「頭をあげて下さい」
ヘンリーが頭を上げると、フィリッポスは笑顔で答える。
「お二人のことを特別に感じているからこんな話をしているのです。ぜひ聞いてください」
フィリッポスが今まさに語ろうとした瞬間、
家の外から、太鼓の音が鳴り響いた。
フィリッポスはすぐさまこの音を聞きながら、
「これは、危険を知らせる信号です!行きましょう!」
そう言って、隅にあった剣をもって家の外へ出た。
ケネディもヘンリーもフィリッポスの声を聞いて、急いで家の外を出て中央へ向かった。
----------------------------
中央には、村の人間が集まっていた。
フィリッポスは急いで、村長へ話を聞いた。
村長もフィリッポスを探しており、見つけると慌ててフィリッポスのもとへ向かってきた。
「何がありましたか?」
「先生!山の中から!」
村長は顔が青くなっており、冷静さを完全に失っている。
「皆さん、中央へなるべく固まってください!男たちは倉庫から槍と盾を!女性は弓を持って!」
フィリッポスは村民へそう告げると、その一声で少し冷静になったのか、倉庫から武器を持って中心に固まった。
「みなさんは合図を出すまで、堀の下で待機していてください!」
村民へそう告げると
そばにいた二人に向かって
「お二人は僕と一緒に村の入口に行きましょう。」
ケネディは少し怯えて
「わ、わかった、大丈夫かな?相手は異民族だよ?」
「お二人は私が守ります。大丈夫。」
ヘンリーは堂々としていた。
「大丈夫だと思います。ある程度来た理由は分かります。ついてきてください」
フィリッポスには何か確信があるような話し方をしていた。
―村の入口―
村の入口周辺には、300人ほど馬に乗った異民族が並んでいた。
数が300だとしても、この村からすると大軍である。
「お、おい。かなり多くないかい?」
ケネディは冷や汗をかいていた。
彼は商人である。戦場には出たこともない。
(流石に多いな、この村の規模では防ぎきるのは厳しいか..)
ヘンリーは、冷静に分析していたが少し震えていた。
(これはどうすれば…)
ヘンリーはフィリッポスの背中を見た。
フィリッポスの身体はまったく震えていない。
それどころか、余裕すら見える。
(このような状況でもどうして..?)
ヘンリーがそう考えていると、フィリッポスは異民族に向かって叫んだ。
「首長はいるか!」
そう叫ぶと、異民族の集団の中から大きな人影が現れた。
「ああ、ここにいる」
そう語る男は、黒い馬に乗って仮面をつけていた。
背丈も大きく、筋骨隆々な腕が見える。
ヘンリー・ケネディは身がすくむ思いをした。
風貌・外見ともに強者の気配をまとっている。
しかし、フィリッポスは臆せずに
「目的は食糧だろう!」
首長は、少しの間黙っていたが
「そうだ、その通りだ」
と答えた。
そのやり取りでヘンリーとケネディは気づいた。
(そうか!干ばつか!)
今年は帝国内でも記録的な干ばつの影響で、飢饉が発生している地域もあった。
その影響で、異民族にも影響が出ていた。
食糧を求めてこの村に降りてきたのだろう。
「こちらにはある程度の蓄えはある!だが、ただでは渡せない!」
どうやらフィリッポスは交渉をしようとしている。敵に囲まれているこの状況で。
「フィリッポス君!彼らは異民族だ!いざとなれば戦になる!この村では到底守り切れない!」
ケネディは必死に叫んだ。
(悔しいが、ケネディさんの言う通りだ。この村では到底守り切れない)
ヘンリーもそう考えていた、
しかし、フィリッポスはそう考えてはいないようだ。
「君たちはヤン族だろう?略奪などはしない民族だと聞いている!」
そう話すと、首長は頷いて
「そうだ、我々は「赤獅子の誓い」があった。この誓いに従って略奪はしない。」
赤獅子の誓いとは、イスマイール・イスカンダルと異民族が結んだ誓約であり、そこには彼らに宗教の自由・自由自治の形式を認める代わりに、帝国の民として臣従するというものであった。その中には、略奪の禁止が定められている。
「しかし」
続けて首長はこう語った。
「赤獅子はもういない。我らは「帝国」と誓いを結んだのではない。「イスマイール・イスカンダル」と結んだ誓約だ」
そう答えると、後方の民族たちは大きな声を上げた。
「赤獅子を殺した帝国の民ではない」
ケネディは、このやり取りを聞いて震えあがっていた。
(これはまずい、彼らは本気だ…)
ヘンリーは剣を構えた。
戦いを覚悟したヘンリーであったが、この言葉を聞いても動じない人間が一人いた。
「君たちにとって赤獅子はそんなにちっぽけな人間だったのか?」
そう語る彼の声は、どこか悲しさを帯びていた。
経済とか政治とか、宗教とか本当に難しい....
僕は水滸伝が大好きなので、かなり水滸伝からインスピレーションを貰っています!
皆さんは好きな歴史小説などはありますか?
コメントやブックマーク・いいねお待ちしております!
皆さんが読んでくれることが僕にとって何よりの幸福です!