第五話 商人と徴税人
帝国歴199年
帝国西部ガラパゴス村
次の日
ヘンリーは朝から開かれているフィリッポスの「授業」を村の人間とともに聞いていた。
今回の内容は、文字の読み書きと貨幣の計算方法であった。
ただ勉強を教えるのではなく、なぜ文字の読み書きができるとよいのか、計算ができるとよいのかを重点に伝えながら、生徒のやる気を引き出す講義は帝国の学校などよりも遥かに意味のある教育がなされていると感じた。
昼過ぎになり、授業が終わり村の人たちは家に帰っていく。
ヘンリーはフィリッポスに近づき
「ありがとうございました。とても分かりやすい授業でした。やる気を引き出すのがお上手ですね」
「勉強というものはただ聞いていてはつまらないだけです。内容を説明するだけでなく、なぜその勉強をする必要があるのかを覚えるほうが、将来役に立ちます」
ヘンリーはフィリッポスの言葉を聞いて、感嘆していたところ
ある人物が家に入ってきた。
「ああ、授業は終わってしまったか。間に合わなかった。」
「こんにちは、ケネディさん。ええ、もうみんな帰ってしまいました」
フィリッポスは笑いながら返すと、その男も笑いあっていた。
そしてヘンリーを見つけると、
「フィリッポス君、この方は?」
と問いかけた。
「初めまして、この地域の徴税官を行っております。ヘンリーと申します。」
「ああ、徴税官の方でしたか。私はケネディ、商人をやっております。」
フィリッポスが昨日話していた友人とはこの方であったとヘンリーは理解した。
それから3人は暫く雑談をしていた。
ヘンリーやケネディの自己紹介やこれまであったことなど多くを語った。
「いやあ、まさか赤獅子隊と共にゾマ戦役を生き抜いた方だったとは!徴税官というのは平民を常に疑い、どうしても下に見ている方が多いのですが、それをヘンリーさんからは全く感じませんよ!」
「ええ、これもイスカンダル様の教えのおかげです。ケネディさんも村の皆様のために活動されているではありませんか。しかも、普通より安い価格で。私も商人の印象は中央にいる金のことしか考えない人間というイメージだったのですが、ケネディさんからは真逆の存在だ。あなたのような方がもっと増えればいいのにと思います。」
二人はどうやらかなり意気投合したようだ。
すっかり打ち解けて、笑顔で話している。
「お二人が打ち解けてくれて良かったです。」
フィリッポスが笑顔で声を掛ける。
「そういえば、ケネディさんはあの冊子は読んでいただけましたか?読んでいるなら感想を聞いてみたいのですが、、、」
「ええ、今日はそのことについて教えてほしいのです」
そう話すと、ケネディは先ほどの和やかな表情とは打って変わり、真剣な表情をしていた。
「実は私も、昨晩読みました。色々聞きたいこともあります。」
ヘンリーは昨晩渡したにも関わらず、読んできたという。
ケネディはフィリッポスから「人間たれ」を貰い、暇がある度にそれを読んでいた。
内容はかなりシンプルだった。
腐っていく国の中で過ごしていた兵士が、兵士という職業でありながら、商人の不正や貴族の汚職を黙ってみることしかできなかった葛藤。
賄賂や汚職で、上級階層の人間は肥え太るのに、下の階層はやせ細っていく。そんな現状に何もできない自分へのやるせなさを書いていた。
ケネディはこれを読んで、この冊子の内容は帝国の現状と瓜二つであると感じ、同時にその内容に共感した。
帝国内、特に人の集まる都市などは、小さな不正や横暴が平気でまかり通っている。
多少犯罪をしても、金銭を渡すだけで見逃され、金を持たぬものは犠牲者になる。
役人は不当な言いがかりをつけて税金を上げ、払えないと処罰する。
軍部も役人とつながっているため、時には暴力的な手段を講じることもある。
ケネディも上手く商売を行うために、役人に必要以上の金銭などを払いなんとかやってきた。ケネディはこの現状を当たり前のことのように受け止め、必要経費と思って支払ってきた。しかし、「人間たれ」を読んで考えてしまった。
「こんなものが許されていいわけがない」と。
役人の不正などは国の腐敗の元だ。発覚した地点で、処罰の対象になる。しかし、実際に処罰されたという話はあまり聞かない。
ということは、中央もある程度黙秘をしているということだ。
そんな国があってよいのか?
そもそも国とはなんだ?民のためにあるものではないのか?
国民から税を搾り取るために存在しているのではない。
ただ上流階級の人間が、甘い蜜を吸うために存在しているのではない。
ケネディはこれを読んでから、言葉にできない怒りと、国とは何かを考えるようになっていった。
ヘンリーもケネディとほぼ同じことを考えていた。
不正や賄賂が横行する国。何もできない無力さ。ヘンリーは役人として活動していたため、そんなことはたくさん見てきた。そう、見て見ぬふりをしていたのだ。
そんな自分に怒りがこみ上げるとともに、ではどうすべきなのかを考え続けていた。
ケネディはフィリッポスの眼を見て尋ねた。
「フィリッポス君、僕はこれを読んでから良い国とは何かを考えるようになった。でも考え続けても答えがわからない。帝国は腐ってきていると思うが、国は存続している。腐っていても続いているからこそ、答えがわからない。フィリッポス君、君が思うことを聞いてみたい。どんな思いでこの冊子を書いたのか。教えてほしい。」
ヘンリーも頷く。
フィリッポスはケネディの話を、目を閉じて黙って聞いていた。
話が終わると、何かを決意したかのように、目を開けた。
「今からする話は、どうか内密に」
ケネディとヘンリーは黙って頷いた。
そろそろ風邪も治ってきました!
やっぱりお薬飲んで寝ることが大事ですね!
睡眠は偉大!
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