第三話 徴税人
帝国歴 199年
帝国西部ガラパゴス村 近郊
ガラパゴス村に向かって、軍服を着用し、馬に乗った人物が向かっていた。
彼の名前は、ヘンリー・ネック。
辺境を担当する徴税権を持つ役人である。
ヘンリーの目的は、ただ一つ。
西部であり、なお異民族との国境にあるガラパゴス村。
そんな村は、辺境で唯一決まった年貢を払い続けている。
(なぜこんな辺境の村が?)
以前のガラパゴス村は、他と同じように寒村であったはずだ。
しかし、約半年前から安定して年貢を払い続けている。
しかも、今まで払えていなかった分の年貢もすべて完済してしまったのだ。
ヘンリーの知るガラパゴス村はまさに「寒村」だったはず。
何か払えるようになったきっかけがあったはずだ。
ヘンリーは直感的にそう思い役所に頼み込み、調査を実施することになった。
そのガラパゴス村での出会いが、ヘンリーの運命を大きく変えることになるとも知らずに。
ヘンリーがガラパゴス村に着くと、村長が出迎えていた。
「ようこそいらっしゃいました。ヘンリー様」
「出迎えありがとう。今回の調査はあまり堅苦しいものではないから、肩の力を抜いてくれると助かる」
「はい、ではご案内します。」
そういって村長とヘンリーは村を歩き始めたが、広場の看板をみて違和感を抱いた。
「村長、あの看板は?」
「ああ、あれは村のみんなで使う連絡道具です。なにか困りごとなどがあれば、あそこに書き出して、協力をお願いしています。」
え?文字を書ける?
ヘンリーは驚きを隠せなかった。
「まて、村の方々は文字を使っているのか?」
彼の認識では、帝国内で文字を認識できる人間はあまり多くない。
文字を読めるのは、主に中央や、都市の人間であり、農村や辺境の住人は教育制度もないため、識字率がとても低いのである。
「はい、我々に文字を教えてくださる「先生」がいらっしゃいまして。あの方のおかげで、色々なことが変わりました。作物の育て方や農地の活用方法、冬の乗り越え方、商人との取引の仕方なども」
そう語る村長の顔は笑顔だった。
「そ、そうなのか」
ヘンリーは困惑しながら返事をしたが、驚きを隠せなかった。
文字を教えているだけでなく、農地や作物の育て方?さらに商人との取引の方法などについて教えるとなると、決まった方法もないものまで教えていることになる。
余程、博識な人物なのか。しかし、そんな人間なら中央にいてもおかしくない。
最近、中央やほかの都市から研究者が来たなどの情報もない。
「その「先生」は、今もこの村に?」
「ええ、今日は授業がないので、昼間は外に出ていますが、夜はいるはずです」
「そうか、では夜になったら会いに行こう」
ヘンリーは夜になるまで、村についての査察を行った。
この村には驚かされる点が多くあった。
まず作物。この地域では自生しないカブと小麦・大麦を育てていた。カブは寒さにも強く、家畜のえさにも使えるため、使い勝手が良い。麦は栄養価も高く、様々な加工用途がある。
さらに驚いたのは農地の使い方だ。
農地を4つに分け、4つの農地ごとに一年ごとに植える作物をカブ・大麦・クローバー・大麦でローテーションして育てていたのだ。このシステムなら、休耕地を置かなくてよいため生産量が増大する。カブとクローバーは家畜のえさになり、小麦と大麦は人の食べる食料となる。
この方法は、穀物の生産と家畜の飼育を同時に行える画期的な方法だ。
これを広めることができれば、生産量の増大や食糧生産の増加につながる。
こんな方法は中央でも知らない、これを教えた「先生」とは何者なのだ?
村人の表情を見ていても、みな瘦せている様子もなく子供達も元気に遊びまわっていた。
半年前に見た村は何だったのか。
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ヘンリーは暫く村を観察していると、子供たちが遊んでいる様子をみていた。
子供たちが手をつなぎながら、追いかけている。
鬼ごっこか?
「なあ、君たち。これは何の遊びをしているんだい?」
「手つなぎ鬼ごっこだよ!先生が教えてくれたの!」
ヘンリーはここでも「先生」という単語を聞いた。
「先生はどんな人なのかな?」
「うーん..先生はね何でも知ってるの!話も私たちに分かるように話してくれるし!」
「そうなんだ、すごい先生だね」
「そうだよ!この前はお母さんとお父さんがけんかしたときの仲直りの方法も教えてくれたの!」
「そ、そうか。そんなことまで...ありがとう」
子供たちと話を終えた後、ヘンリーは椅子に座って『手つなぎ鬼ごっこ』の様子をみていた。
(よく考えられた遊びだな)
鬼が手をつないでいるため、息を合わせて同じ方向に移動しなければたちまちバラバラになってしまう。
逃げている子供はその連携の隙を見抜いて上手く間を逃げていた。
ヘンリーは軍人でもあったため、これを軍事的な目線でみていた。
子供たちを部隊と捉えると、部隊が固まって移動することの大切さが体現されている。
逃げるほうも、部隊間のほころびや、連係ミスを上手く突けば突破できることを示している。
なるほど、思っているより奥が深い....
益々『先生』に興味がわいた。
農業や商業だけでなく、軍事方面にも知識がある人物ということになる。
本当に一体何者なのだ?
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村長からのもてなしを受け、たちまち夜になった。
ヘンリーは好奇心や疑問を抱えながら、「先生」と呼ばれる人物のもとに向かった。
村長から先生の住まいを聞いたのち、手土産も持って向かった。
ヘンリーはノックをしてから、「先生」の家へ入った。
「どうぞ、ヘンリーさんですね?フィリッポスといいます。よろしくお願いいたします。」
そこには、温和な雰囲気ながらどこか圧倒される雰囲気を持つ赤い髪色の好青年が立っていた。
本当に小説を書くのって難しいですね...
有名な皆さんはどうやってあの頻度で投稿できているのでしょうか?
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