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第二話 青年

帝国歴 199年


帝国西部ガラパゴス村


『先生』の家



「やあ、ケネディさん。来てたんですね」

授業後、『先生』がケネディに声をかけた。

「君は本当に何者なんだい?」

ケネディは苦笑いしながら答えた。

「さあ、何者でしょうね。自分でも分かりません」

「まあ、いいか。それよりも頼まれた新聞を持ってきたよ『フィリッポス君』」

そう言って、ケネディは新聞を渡した。



『先生』の名前はフィリッポス。彼はここの出身ではなく、3年前、山奥から急にガラパゴス村にやってきた。始めは、農民も彼のことを怪しんでいたが、子供たちを中心に勉強や遊び方を教え始め、今ではこの村にとって必要な人間になった。


特徴的な赤い髪色に黒い瞳、身体も大きい。


ガラパゴス村の人間は彼の素性について詳しくは探らず、教養の高さ、物腰の柔らかさからどこかの貴族の息子ではないかとか、亡国の王族の生き残りだとか噂されていた。

「おお、新聞。いつもありがとうございます」

フィリッポスは新聞を受け取りながら、話を続ける。

「ケネディさん、東部はどうなりました?」

「ああ、君の言った通り、帝国は東部戦線のゾマ王国との国境に武器を送っている。君の助言のおかげで、僕もたんまり稼ぐことができたさ。でもなぜわかったんだい?ゾマ王国との平和条約はまだ続いているはずだが」

ケネディは理由が分からなかった。ゾマ王国は、帝国とは平和条約を結んでいたはずだ。

「3年前に現れた異世界からの勇者。その勇者の育成期間が確か4年。育成が終わり次第、おそらくまた戦争が始まるでしょうね」

「3年前、そうか。あれからもう3年経ったのか」

ケネディは3年前を思い出す。



忘れもしない。あの「英雄」が死んだ日。

濡れ衣を着せられ、火炙りにされた男。

彼は真の意味で英雄だった。勇猛果敢でありながら、それを活かす頭脳を思った天才。

しかし、彼は民の平和を想い、戦争自体を嫌っていた。

私は従軍していなかったため、彼のことは口伝でしか聞いたことはないが、彼のことを話す軍人は目を輝かせていた。

そうケネディは思い出に浸っていると、フィリッポスは座って、新聞を読み始めた。



そうして1時間ほどだろうか。

フィリッポスは新聞を一通り読み終わった。

「ケネディさん、新聞ありがとうございました」

そういって銅貨を数枚渡した。

「どうも、何か気になるものでもあったかい?」

「そうですね、やはり『勇者』の記事が気になりますね」


3年前、帝国は再び始まるであろう戦争への対策として古代の遺産を利用して、異世界から勇者を召喚した。確か名前はケント・アサヒナ。

帝国は彼を、国を救う英雄として祭り上げ、彼に美人を与えて篭絡し、彼が欲しいものすべてを与えた。現在帝国は彼に教育や戦い方を教え、英雄として育て上げようと躍起になっている。

ケネディはこの『勇者』に疑問を抱いており、懐疑的だった。

「勇者ね、俺はどうにも好きにはならんね。あんな若造に国を救ってもらうって?冗談じゃない、なんで帝国はあんな奴に期待してるんだか」

そう話すケネディをみて、フィリッポスは笑っていた。

「フィリッポス君はどう思う?『勇者』について」

「勇者ですか、可哀そうだと感じます。」

「なるほど、可哀そう?」

「はい、考えてもみて下さい。勇者にも元々の生活があったと聞きます。それなのに彼は急に知らない場所に呼ばれて、国を救ってくれと言われています。客観的に見たら可哀そうじゃないですか?」


その話を聞いてケネディは感嘆した。


「そんなことを話す人が以前にもいたよ。思い出してしまった」

「そうなのですか、変わり者ですね。どんな方だったのですか?」

「ああ、素晴らしい人間だった。俺だけではなく国民ならその人を「英雄」と呼んでいたよ」

そうだ。彼こそが真の英雄だった。


「その人の名前は、イスマイール・イスカンダル。「赤獅子」と呼ばれていた。」


それからケネディはフィリッポスに向けて、赤獅子について語り始めた。

3つの異民族との戦争での活躍。

赤獅子が有名になるきっかけとなった、ゾマ王国との第二次戦役。

赤獅子隊の結成や、国内で有名となった赤獅子の歌に関して様々なことを話した。


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気がつけば、夜になってしまっていた。

「もう夜か、あまりにも長話をしすぎた。すまないね、フィリッポス君」



フィリッポスはケネディの話を真剣な面持ちで聞いていた。

「いえいえ、面白い話を聞けました。イスマイール・イスカンダル、彼は本当に国民から愛されていた将軍だったのですね」

「ああ、俺たちからしたら彼こそが本当の英雄さ。しかし、3年前に濡れ衣を着せられて処刑されてしまった。帝国はなぜあんなに愚かなことをしたんだろうな、、」


ケネディは何故だか涙があふれてしまった。帝国の中心では、イスカンダルの名前には箝口令が敷かれているのだ。そのため、彼の名前は歴史書からも本からも劇からも消えている。

彼は国民の記憶の中にしか存在しないのだ。


「でも、彼はもういないんだ、、、彼が死んでから、帝国は勝利の象徴を失ってしまった。できるなら彼を帝国の中枢とした、国というものを見てみたかったなあ、、」


ケネディが泣いている横で、フィリッポスは静かに語りかける。

「確かに、彼はもういないかもしれません。しかし、国民の記憶に残り続ける限り、彼はどこかで生き続けているはずです。」


その話を聞いて、ケネディは顔を上げた。

「そうだ、俺たちが彼を忘れない限り、彼もまた生き続ける。」

「だから、気を強く持ってください。」


そう言ってフィリッポスはある冊子を手渡した。

「ケネディさんにお願いがあります。」

冊子のタイトルは「人間たれ」と書いてある。


「これを読んでみてください。私の友人が残した本です。良い内容だと思ったら、是非広めていただけませんか?」

ケネディは、冊子を受け取った。

まだ読んではいないが、彼は何故かその冊子に強く引き込まれるような想いを感じた。

「わかった。読んでみるよ、ありがとう」


そう話して、ケネディはフィリッポスの家を出ようとしたところ、あることを思い出した。

「そうだ、フィリッポス君、イスカンダル将軍の髪色は赤色だったそうだ。フィリッポス君の髪色も赤色だね。赤色の髪色は珍しいらしいよ。もしかして、君がイスカンダル様の血を引いた人間なのかな?」


そう話すと、フィリッポスは苦笑いをした。

「まあそうであったら、よいかもしれませんね」

「ありがとう、またね」




ケネディがフィリッポスの家を離れると、フィリッポスはある言葉を呟いた。


『赤獅子は何物にも屈せず・何物にも負けない・決して倒れてはならない』


この言葉は、ケネディが先ほど話していたイスカンダルが率いていた赤獅子隊の宣誓であった。この言葉は、劇場で上演された部隊「赤獅子」の有名なセリフである。

この3つが赤獅子隊での規則であったとされている。




あくまでも、国民の中では。




フィリッポスは続けてつぶやいた。

『赤獅子は、名誉の死などない・泥にまみれても生き残れ』



『生き残れば、勝利はわれらの手に』



「大丈夫さ、ケネディ。俺は勝つ。そのために戻ってきたのだから」


こうつぶやくフィリッポスの姿は、まさに天下に名を轟かした「赤獅子」を彷彿とさせるものだった。



もうすっかり夏ですね...(夏嫌い)

皆さん、急激な気温の変化には気をつけてくださいね!

私は変化に耐えられませんでした笑(絶賛風邪気味です...)

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