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窓を開けると、風が吹き込んできた。ババババっと鳴る風の音は普段なら煩いと思うはずだが、今日は違った。熱くなった頭を冷やしてくれるようで気持ちがよかった。麻村はレンタカーの運転席で、ハンドルを握りながら「あたまいてえなあ」とぼやいた。
「昨日あんなに飲みすぎるからでしょ?」助手席で片丘がぶつぶつ言っている。うるせえ黙れよきもちわりい、思わず言いたくなったが、運転席の窓からは風が入り込んできていたため、その音で片丘の声はほとんど相殺されていた。
麻村は昨日のことをよく覚えていなかった。べろべろに酔ったつもりはなかったはずなのだが、気づいたら朝になっていた。ベッドの上で目覚めたとき、隣には裸の片丘がいた。
そもそもこの女は何なんだ――麻村が苛立つのにも無理はなかった。当初、六人で行くはずの旅行はこの女のせいで水の泡になってしまったのだから。後部座席に座っているはずの女性陣はおろか、助手席には和久井の姿もなかった。
どうしてこうなった。
麻村は、居酒屋に行って酔う以前までの記憶はあった。「かたおかでえーす」あざとい自己紹介が脳内に蘇ってきた。