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即身像  作者: 面映唯
第一章
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 学食の六人掛けのテーブルには、(あさ)(むら)を含めた六人の男女が座っていた。ゼミが終わり、その流れで仲のいい六人で学食でだべろうということになった。


 当初話題はゼミのこれからのことだった。四月が過ぎ、五月になった。垢抜けない新入生たちを傍目に、三年に進級した麻村たちは大学生たる風姿だ。そんな彼らも以前は新入生同様、垢抜けない姿だった。自分もかつてはそうであったはずなのに、それを忘れている模様。デパートで買った服はブランド物へと姿を変え、腕時計、ピアスイヤリング、サングラスに毛染め、パーマ。一年後には黒服に身をくるむ人々とは到底思えない。しかし、それが大学生の美しき点でもあった。数日前に飲み会をやったばかりであったが、「また飲み行こうぜ」と一人が言った。一人は、「どっか旅行行きたい」と言った。つられてもう一人が、「海行こ、海」と目を輝かせる。「水着買いに行きたいね」「どんなのにする?」話題は数か月先のことだった。


「電車じゃなくて、車で行ってみようか」と一人が切り出すと、「あーいいねー」「旅行って感じー」などと話題は車へと移った。六人だからバンでも借りようか、ところで免許持ってる人ー。


 免許を持っていたのは、麻村だけだった。


 そこから、話題はあおり運転へと移った。


「最近あおり運転とか怖いじゃん。初心者マークとかつけた方がいいんじゃない?」

「初心者マークって一年過ぎてからもつけて大丈夫なの?」

「さー、どうだろう」

「あおり運転なんて、こっちが何かしなきゃされることもないよ」

「えーわかんないじゃん。理不尽に付け回してきそうじゃん」

「あれ、どういう感情なんだろうね。だってこっちがブレーキ踏めば相手もぶつかるわけよね? ぶつかった後のこととか考えてるのかな」

「怒り散らしたいだけなんじゃない。日頃のストレス。それで車ぶつけたから弁償しろとか言われるんでしょ?」

「やだー」

「警察呼べばいいじゃん」

「あ、そうじゃん。警察呼べば相手も脅したりできなくなる」

「でも、あおってきた相手が被害者面してこっちのこと犯人みたいに仕立て上げてきたら?」

「ああ確かに。追い越し車線ずっと走ってる奴も悪いしな」

「あのなあ、今どきのレンタカーはどの車でもドライブレコーダーくらいついてるよ」

「え、そうなの? 車乗らないのによく知ってるねー」

「去年の夏に熱海まで家族で旅行行ったんだよ。そんときレンタカー借りた」

「へえ、熱海ねえ」

「それ、本当に家族旅行?」

「あたりめーだろーが」

「ほんとかなー」

「めーって牛じゃないんだから」

「今ググったら、ドライブレコーダーついてないレンタカーもあるみたいだよ」

「嘘じゃん」

「嘘ついた」

「うるせーな、そんなのついてる車借りりゃあいいじゃねーか」

「まあ、そうそう煽られることなんてないでしょ。最悪、煽られたら道曲がっちゃうとかすればいいし」

「まあそうねー。まあ運転手次第かな」

「運転するの麻村でしょ? あ、ちょっと想像しちゃった、麻村が運転してて助手席にあたしが座ってるの」

「ええーー、めっちゃわかるー。運転してる男の人ってめっちゃかっこいいよねー」

「横顔とか萌えー」

「サングラスしてて横から見える目!」

「首筋!」

「バックミラーで視線が合う!」

「おい、聞いてる? 運転するの麻村だぞ?」


 麻村はそこで我に返った。六人の中でもよく話す和久井(わくい)が覗き込んでいた。だいじょうぶかー、と麻村の顔の前で手を振っていた。


「おう! 任せとけ。女どもは俺の運転に惚れるなよー」シャツの胸元に引っ掛けていたサングラスを取り、かけ、鼻の頭まで下げ、上目遣いで決め顔をした。


「うわっきっも。一瞬で覚めた」

「惚れるわけないじゃんねー」女性陣は顔を見合わせていた。

「あ、いや、そっちもなんだけど……」そこまで言うと、隣のテーブルに座っていた男子学生を視線で皆に知らせた。

 小声で「なにあいつ。ずっとこっち見てたんだけど。カウンター向こうにあるのに、六人席に一人で座ってぼっちアピールかよ。きも」

「仲間に入れてほしいのかな?」

「馬鹿じゃないの、きもすぎ。あー気分悪くない? 移動しよ、移動。あ、そうだこれからのみいこ。みんな来るよね?」

「いいねー行く行く」

「あ、俺も」

「麻村は?」

「あ、ああ。俺も行くよ」


 六人は席を立ち、学食から出た。キャンパス内を歩きながら麻村はひとり、感傷に浸っていた。前を歩く四人は、これから飲みに行くことで頭がいっぱいなようだった。はしゃいでいる。麻村の隣で和久井が訝しげに麻村の顔を覗いた。


「なんか……」心配そうな声を出した和久井の言葉を遮るように、「久々にべろべろになるまで飲むか!」麻村は声を張り上げた。その声は、前を歩く女性陣にも聞こえていた。


「誰がべろべろになるまで飲むってー?」

「介抱するの誰だと思ってんの? ちゃんと自分で帰れるんなら許可しまーす」


 校門を抜け、街へと歩き出した。六人で。



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