2
騒がしさは苦手でないが、多数の人間に歩調を合わせるのが浅比は苦手だった。俗に言う「空気を読む」という行為だ。苦手だからと言って空気が読めない訳ではないのだが、自分の意思に背く行動をとろうと思ったときに、激しく頭が回るのだった。それは脳が活性化しているのではなく、苛立ってしまうのだ。
要するに無駄な労力を使うのが苦手なのだった。
割り当てられただけのテーブルに座っていた名前も知らない彼らは、隣か奥か、別の席の者たちと会話を楽しみに行ったのだろう。浅比の座っている長テーブル席には、手の付けられていないつまみや料理がいくつも並んでいた。居酒屋の店員が料理を運んでくるたびに浅比は腰を浮かし、すみません、と呟いた。食べ物を粗末にする、厨房で忙しなく作っている風景――見慣れた光景なのか、仕事だと割り切っているからなのか、店員の態度は一般的な飲食店のそれだった。そっけなくもなく、とんでもない、という素振りも見せなかった。そのことに酷く落ち込もうとしたが、どうやら浅比には割に合わないようだった。
居酒屋の角の席に座っていたため、居心地はよかった。隅というのは実に居心地がいいものだ。そして、全体を眺めることができる。真ん中にいては振り向いたり左右に身体を振らなければ把握できないことも、一目で把握できる。
気分がよかった。
しかし、家に帰りたかった。