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翌日、片丘は自宅アパートに帰るといい、沢田のアパートを出た。大学へ行き、同じ講義を受けた。座っている席は片丘が前方、沢田はいつも通り後方の席だった。沢田の隣ではまた下の話をしていた。「〇〇と××が――」出てきた名前を探そうと講義室を見渡す。見つけた彼ら二人は、とても昨日濃密な夜を過ごしたようには見えない。当然だ。恐らく濃密ではないのだろうから。男が勝手に初めて勝手に終わったのだろう。
二人を交互に眺めていると、ふいに××と視線が合った。彼と話したことは全くない。しかし、彼は笑みを浮かべた。そしてこちらに向かって手を振った。
「なに、お前××と話したことあんの? お前が取り入るにはあっちのグループはイケイケすぎるだろ」
「え、マジで! あの四人皆可愛いじゃん。六人グループだからハーレムでずりい。俺も混ぜてくんないかな」
隣が騒がしい間も、××はこちらに手を振り続けていた。隣の女学生の肩を叩き、彼女が此方を振り返った。彼女も手を振った。
沢田は手を振り返す気にはなれなかったため、微笑みながら軽く頭を下げた。
それが和久井との出会いだった。
思えば思い当たる節はあった。何かとその日以降、和久井は沢田に声をかけた。つい最近だ。どこから手に入れたのか、沢田たちが当たり屋をしているということを知っていた。それをネタに脅してくるのかと構えたが、和久井は「仲間に入れてくれ」と言った。だが、沢田たちは手を引くことを決めていた。やるなら勝手にやってくれと沢田は言い放った。
だから昨日、沢田の前に現れた二人を見たときは驚いた。組み合わせにも驚いたが、片丘だ。片丘は温泉を掘り当てると言って聞かなかったはずなのに――和久井と片丘は揃って「一緒に宝探ししよう」と言った。片丘は雲河に行ったことがあるとはいえ、和久井は言ったことがあるのだろうか。そう思えるほど陽気な爛漫だった。雲河は大学生のノリで行くような場所ではない。しかし、沢田もまた、雲河に足を踏み入れたのはノリだった。片丘と飲み、その夜一緒に寝、その流れの一つでだった。