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第9話 暗雲



「ラング様、そろそろお目覚めになって下さいな」


「う……ん、もうそんな時間か」


 レイチェルの天使のような美しい声で目を覚ました私は瞼を擦りながら徐に身体を起こしベッドから下りる。


 今日も一日中謁見の間の玉座に座り、無能な臣下たちがしっかりと結果を出すように尻を叩く仕事が始まる。

 いつの世も為政者は大変だ。

 私は憂鬱な気持ちで身支度を済ませて朝食をとり謁見の間へ向かった。


「ラング殿下おはようございます」


 謁見の間では既に臣下たちが報告書を手に整列して私を待っていた。

 まるで私が遅刻をしたかのようで気分が悪い。


 まあ実際には少し遅れたのは間違いないのだが臣下ならば主君の顔を立てて少しは空気を読むべきだろう。

 本当に気が利かない奴ばかりだ。


「ラング殿下、ここにいる皆は昨日から殿下をお待ちしておりましたぞ」


 宰相のビスマルクスが前に出て私を咎めるような口調で言った。


 そう言えば昨日各省の仕事が滞っている件で責任者を呼び寄せるように命令を出していたな。

 すっかり忘れていた。


 まあ私にも都合というものがある。

 そもそも公務が滞っているのはこいつらの怠慢が原因なのだ。

 一日ぐらい待たせたからといって何だというのだ。

 今更小言など沢山だ。


「……時間が惜しい、早く報告をせよ」


 私はビスマルクスが言葉を続けようとするのを強制的に中断させて本題に入らせた。


「まずは王都の東のエリアの開発が進んでいない件だがこれは一体どういう事だ」


「はい、あの辺りは川が度々氾濫する為に思うように開発が進まないのです」


「そんなもの堤防を作れば済む話ではないのか?」


「それがあの川には水神様が住んでいると言われており、祠を建てて祀らなければ鎮まらないそうで……」


「ふむ……ならばさっさとそのようにせよ」


「我々では作法が分からないのです。巫女であるシルヴィア様でしたらご存じかと思いますがここしばらく不在のようでしたので……ラング殿下、シルヴィア様はいつお戻りになられるのでしょうか?」


「シルヴィアだと? あいつはもう実家に帰った。二度と王都に戻ってくる事はない。お前達で何とかせよ」


「そ、そんな……」


 責任者は絶望的な表情を見せながらとぼとぼと謁見の間を後にした。


 続けて王都内の治安の悪化と犯罪検挙率の低下を指摘すると警備責任者の男が答えた。


「近頃王都で暴れている盗賊団は巧妙に民衆の中に溶け込み、なかなか尻尾を掴ませないのです。シルヴィア様がいらっしゃれば【口寄せ】の力で犠牲となった者本人の霊魂から情報を聞きだせるのですが……」


 またシルヴィアの名前が出てくるのか。

 私は無性に腹が立ってきた。


「どいつもこいつもシルヴィアシルヴィアと……何が巫女だ、何が【口寄せ】だ。死人の力など当てにするな! 自分達が楽をしようとしているだけだろう」


「しかし王国の発展の為にシルヴィア様の力をお借りする事はサイクリア陛下からも許可を頂いておりますので、シルヴィア様のお力なしにやれと言われましても効率が悪くなるのは致し方ない事かと」


「ええいうるさい、今この国を取り仕切っているのはこの私だ、父上ではない。それを何とかするのが貴様達の仕事だろうが。さっさと仕事に戻れ!」


「はっ……」


 私は無能な臣下たちを下がらせると大きなため息をついた。

 これでは王国の未来は真っ暗だ。


「ラング殿下、ご報告致します」


「今度は何だ!」


「サナトス様が参られました」


「何? 小うるさい元老院の長がいったい何の用だ……だがこの私が正式な王になるまでは奴らと事を構えると面倒な事になる。丁重に案内しろ」


「ははっ」


 しばらくして長く立派な白ひげを蓄えた眼光鋭い老人が現れた。

 国王を補佐するという名目で事ある毎に政治に口を挟んでくるうっとうしい男だ。

 しかし父上の後見人でもあったこの男を無下に扱えば私が即位する際に障害となる恐れがある。

 私はそんな胸の内をひた隠しにしながら表向きは有効的に応対をする。


「態々サナトス殿が直々にいらっしゃるとはどのようなご用件でしょうか」


「率直に申し上げますラング殿下。あなたには王太子の座を降りて頂きたい」


「な、なんだと!?」




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