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第8話 一方王都では



 私の名前はラング。

 ここサンクタス王国の第一王子である。


 王国の未来の為に聖女レイチェルの進言に従って王国に災いを招く()()であるシルヴィアとの婚約を破棄し、王都から追放してやった。

 その時事もあろうに馬鹿な弟のリストリアが猛烈に反対をしやがった。


 ()()の肩を持つなど王族としてあるまじき行為だ。

 私は怒りに身を任せたままリストリアに王室からの除名を通告してシルヴィアと共に王都からの追放を言い渡した。

 妾腹の分際で次期国王である私に楯突くからあんな事になるんだ。


 それにしてもレイチェルは本当に良い女だ。

 その美しい容姿に聡明な頭脳。

 そして私の言う事を何でも肯定し、その上で的確な助言を与えてくれる。

 彼女と一緒にいると気持ちが安らぐ。

 さすがは聖女に選ばれただけの事はある。


 今日は【お盆(ソウルトレイ)】と呼ばれる祭日だ。

 民衆たちは自宅の中に簡単な祭壇を作り、先祖の魂が現世に戻ってくるのを迎え入れるという。


 馬鹿馬鹿しい。


 死人は所詮死人だ。

 幽霊を家に迎え入れる事の何が楽しいのやら私にはさっぱり理解できない。


 父上が病の床に伏せている今、私が国王の代理として政務を取り仕切っている。

 臣下からの各種諸々の報告書に目を通すと父上が取り仕切っていた時と比べて芳しくない数字が並んでいる。


「何だこれは。責任者を呼んで理由を報告させろ!」


「ははっ、直ちに!」


 私に怒鳴りつけられた臣下の男は震えながら謁見の間を退出した。


「まったくどいつもこいつも無能ばかりで嫌になる。やる気がないのではないか?」


 政務の区切りがついたところで私は付き人に命じてワインを持って来させた。

 酒でも飲んでいないとやってられない。


 その時、王宮の外から人々のざわめく声が聞こえてきた。

 窓から外を見ると何やら民衆たちが王宮の周りに集まっている。


「何事だ騒々しい。おい、誰か様子を見てこい」


「ははっ!」


 兵士たちに話を聞いてこさせると、民衆たちはシルヴィアに【口寄せ】を頼みたいなどとほざいているそうだ。

 あいつらはシルヴィアがとうの昔に実家に帰っている事を知らないらしい。


 私は兵士たちに命じて王宮の周りに集まった民衆たちを力ずくで解散させた。


 そういえばシルヴィアはしばしば町へ出て民衆たちの為に無償で【口寄せ】を行っていた。

 そんなことをしているから民衆たちがつけ上がるんだ。


「くそっ、この私に無駄な労力を割かせやがって!」


 私はいらつきながらワインが入ったグラスを床に叩きつけた。


「あらあら、穏やかではありませんねラング様。どうなさいました?」


「レイチェルか……」


 彼女はいつも私が荒れている時に時に現れ愚痴に付き合ってくれる。

 先程までの一部始終を伝えるとレイチェルは私に心底同情するように言った。


「本当においたわしい。霊なんて汚らわしいものがこの王都内に蔓延っているのが悪いのですわ」


「まったくだ。目には見えないが辺り一面に幽霊が彷徨っていると考えるだけで気持ちが悪くなる。何とかならないものか」


「私にお任せ下さいな」


 そう言ってレイチェルはベランダの窓から王宮の外を覗きこみ、天に向かって祈りを捧げる仕草を行った。

 たちまち聖女の持つ聖なる力が光となって王都を包み込んだ。


「うぎゃああああああ」

「なんだこれは……」

「ひいいいい……」


 そしてかすかに私の耳に入ってくる不快な叫び声。


「レイチェル、今聞こえた不気味な声は何だ?」


「幽霊たちの断末魔の叫びですわラング様。王都中にいる幽霊を破邪の力で掻き消して差し上げましたわ」


 正確にはエクスディア侯爵の裏工作によって聖女になったレイチェルはある程度教会で聖女としての修行は積んだとはいえ正統に選ばれた歴代の聖女程の破邪の力は持っていない。


 しかしそれでも霊魂を驚かせて王都から追い出す程度の力は持っていた。


 霊魂たちが王都からいなくなった事で先程まで私を不快にさせていた嫌な空気はもう感じない。


「さすがはレイチェルだ。これで幽霊どもを有り難がっていた愚民どもの目も覚めるだろう」


「はい、ラング様の仰る通りですわ」


 レイチェルは代わりのグラスを持ってワインを注いだ。

 私はそれを受け取るとワインを一気に喉に流し込み、程良く酔いが回り気持ち良くなったところでそっとレイチェルを抱き寄せた。


「今日の政務は終わりだ。今日はじっくりと可愛がってやるぞレイチェル」


「うふふ……まだ日が高いですわよラング様」






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