第40話 エピローグ
そして時は流れ、今年も【お盆】の祭日がやってきた。
エルリーン伯爵家の屋敷の祭壇の部屋ではひとりの巫女が【口寄せ】の儀式を行っている。
巫女が祭壇に向けて膝を折り両手を合わせて祈りを捧げると早速その身体に霊魂が降りてきた。
「皆さん一年ぶりですね。元気そうでなによりです」
「お久しぶりですシルヴィアおばあ様。伯爵家一同ご覧の通り変わりはありません」
巫女に憑依した私に真っ先に声をかけてきたのは私の孫にあたるシルフィナだ。
一年ぶりの現世、部屋の中を見回すと私の子供や孫、曾孫たちが元気な笑顔を見せてくれている。
しかし一人足りない。
それはクローディアの曾孫に当たる少女クロエだ。
「シルヴィアおばあ様、今年はクロエが【口寄せ】をしているんですよ」
「え? 私今クロエちゃんに憑依してるの?」
クロエは今年でまだ八歳のはずだ。
私がリストリアと結ばれた十年後、クローディアはお父様の古くからの友人であるアルス伯爵の嫡男に嫁いで元気な子を生み幸せな生涯を送った。
クロエもまたクローディアと同じく優れた巫女の資質を持っていたので現在はエルリーン伯爵家に預けられて巫女の修行中の身である。
「皆さんもエルリーン伯爵家の一員として巫女としての修行は怠らないで下さいね。このままだとその内クロエちゃんに伯爵家を乗っ取られますよ」
「おばあ様、お小言は結構です。エルリーン伯爵家は私たちが責任を持って守っていきますのでいつまでも現世を彷徨っていないでいい加減次の命に生まれ変わったらどうですか?」
「言うようになりましたねシルフィナ。でも残念でした、まだまだあなた達を残して逝くのは心配です。来年も様子を見に来ますのでそのつもりで」
「もう、死んでも子離れしないなんて……いつか怨霊化しても知りませんよ!」
「はいはい、それではごきげんよう」
シルフィナの愚痴を聞き流しながら私はクロエの身体を離れ、順番待ちをしている次の親戚の霊魂と交代をする。
「ははは、言われているぞシルヴィア。そう言えばお前も昔【お盆】の日にやってきた先祖たちに早く次の命に転生してしまえとか言ってたな。血は争えないものだ」
私の隣に浮かんでいるリストリアの霊魂が笑いながら言った。
「そうね、あなた。でも今ならあの人たちの気持ちもよく分かるんです。できる事ならあの子や孫たちの行く末をずっと見守っていたいと思いません?」
「ああ、俺も同じ気持ちだ。お前となら世界の終わりまでだって付き合うぞ」
「うふふ、近い将来聖女あたりに自縛霊か何かと勘違いされて無理やり浄化されそうですね」
「でもな……」
リストリアは急に神妙な顔をして言った。
「次の命に転生して、もう一度お前と出会って、もう一度愛を育んでみたいという気持ちもある」
「ロマンチストなんですね、あなた。でも転生をしてしまえば今の記憶は全部忘れてしまいますよ。姿も変わってしまうし、来世で巡りあったとしても分からないわ」
「もし記憶を失ったとしても来世でも俺はお前に再会し、また一緒になれると確信しているよ」
「何ですかその根拠のない自信は。でも私もそんな気がするわ。じゃあ前向きに考えてみようかしら」
「お前が気が向いた時でいい。俺はいつまでも待とう」
今より遥か遠い未来、ここよりも遠い場所で名前も姿も能力も別の命に生まれ変わった二人の新たな物語が始まる。
完




